Fixing a Broken Heart
 10月になり、後期の授業が始まったが、何か物足りなさを感じていた。
 友達ともうまくいっているし、勉強についていけなくて困るようなこともない。
 3年前のことを思えば、今はとても穏やかで幸せなのに、何が足りないというのだろう。
 その答えに気付いたのは、トランジスタラジオが故障した時のことだった。
「これ、修理に出してくるね!」
 妙に浮かれた気分で、私はラジオを抱え、“なんでも修理屋さん”へと駆けて行った。
「冴木さーん!」
 店の戸を叩くと、奥から出てきてくれた。
「こんにちは。電話の調子はどう?」
「絶好調!母も喜んでくれたよ。それで、今日はこれを直して欲しいの。壊れかけのRadio」
 冴木さんは一瞬吹き出しつつも、
「これまたかなり古いタイプのものだねぇ」
 温室育ちの美青年といった雰囲気から、たちまちプロの表情に変わる。
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