鬼嫁と呼ばれ婚約破棄された私は魔王と強制結婚させられました。腹が立つので人間界滅ぼそうと思います。
家族と
反乱からすぐにゼノンが国王となり、人魔界は人と魔族が協力し合って活気を取り戻していった。
強制離縁されてしまった私は、ゼノンと婚約をし、一度目では与えられなかった婚約期間中だ。
もう夫婦ではないのは少し寂しいけれど、婚約というお付き合いする時間ができたのは嬉しいことだ。
とはいえ、ゼノンも忙しくてなかなか二人きりで出かけたりはできないのだけれど……。
「ゼノン? 何をしているんですか?」
珍しく広間でゆったりしているのかと思えば、ソファに座り何やら古そうな鏡を持ってクロスで磨いているゼノン。
「ん? あぁ、ちょうどいいところに来た。千奈、ここへ」
僅かに鏡から顔を上げて手招きをするゼノンに、首をかしげながらも彼の隣に座った。
「これは?」
ところどころ曇りとくすみがこびりついていてずいぶん古そうな鏡だけれど……。
「これは宝物庫にある国の宝だ」
「ほうもつ……って、そんなものなんでここに持ち出してるんですか!?」
宝物庫のものってむやみに持ち出しちゃいけないんじゃ!?
「大丈夫だ。それに、これは必要なものだったからな。ちゃんと宰相にも話してあるし、何より、母の意思だ」
「お母さんの?」
「あぁ。昨夜夢の中に出てきて、これのことを教えてくれた」
ゼノンのお母さんが、これを?
これはいったい──。
「これを見て、弟たちのことを思い浮かべてみなさい」
「弟たちのことを?」
よくわからないけれど、何かあるのだろう。
私は離れ離れになった弟達、千歳と千都のことを思った。
二人のことを考えない日なんてない。
いくらこの世界で生きていく決意を固めたとはいえ、彼らをおいて突然いなくなってしまった罪悪感や、そんな自分がここで幸せになって良いのかという迷いもある。
色々な思いを巡らせながら二人の記憶をたどっていると──。
「──姉ちゃん?」
「!?」
え…………?
古びた鏡を見て、私は愕然とした。
だってそこには、私の上の弟──千歳が映っていたのだから。
「なんで? え、ちょ、千都ー!! こっち来い!! 早く!!」
「何だよ兄ちゃん朝っぱらからそんな──」
「良いから早く!!」
バタバタとあわただしい音がして、移りこんだもう一人の少年。
下の弟の千都だ。
何で?
一体どうして……。
「姉ちゃん今どこにいるんだよ!? 突然いなくなって……何で……っ」
千歳と千都の目から止めどなく零れ落ちる雫に、私も鼻の奥がツンとなる。
「ごめっ……ごめんね、突然いなくなって……っ」
何と説明したらいいのかわからない。
説明するにはあまりにファンタジーで、どうすればいいのかわからなかった。
「私が説明しよう」
「ゼノン……」
混乱する私の手にそっと添えられた大きな手。
いつも私に安心をくれる手だ。
──それからゼノンは、二人に丁寧に説明をしてくれた。
そのうえで、彼は弟たちをまっすぐ見つめてこう問うた。
「こちらの世界からそちらに行く魔法は確立されていない。だが、大司教に君たち二人をこちらへ飛ばすことは可能だ。どうする?」──と。
そんなこと、考えたこともなかった。
また一緒に暮らすことができたなら、と考えたことはあるけれど、夢のまた夢だと思っていたから。
だけど、二人には二人の暮らしがある。
それも私はよくわかっている。
こっちにはゲームもないし、仲のいい友達もいない。
テレビもないし、携帯だって使えない。
年頃の子どもに迫るにしては大きすぎる選択だと思う。
だけど──。
「僕、姉ちゃんのところが良い!!」
そう言いだしたのは、下の千都だった。
「俺も。そっちに行く」
続いて千歳もそう言って、ニカッと笑った。
「でも……いいの? 住み慣れた世界から、こっちになんて……。友達だっているでしょう?」
選ばせておいてなんだが、彼らが無理していないだろうか。
それだけが私の中で気がかりだった。
すると二人とも、なんてことはないように笑って言った。
「そりゃ友達いるけどさ、このまま姉ちゃんがいない方が嫌だ」
「うん。もう家族がいなくなるのは嫌なんだ」
「千歳……千都……」
頭をハンマーで殴られたように感じた。
そうだ。
この子たちは幼い頃から立て続けに家族を失ってきたじゃないか。
父と母、おばあちゃん。そして私。
これ以上、家族を失うのは嫌だ。
そんな叫びに、私には聞こえた。
そして──。
***
「姉ちゃん!!」
「千歳!! 千都!!」
小さな二つの身体を優しく包み込む。
暖かい二つのぬくもりの鼓動を感じる。
あれからすぐに大司教は千歳を召喚してくれた。
二人の子どもが施設から消えたことで、あちらの世界ではきっと大騒動になっているだろうけれど、いつかきっとそれも落ち着く。
一応施設の人に容疑がかからないように、二人には自分の筆跡で手紙を残させた。
自分の意思で出ていくのだということ。
施設の皆さんへの感謝。
そして今まで仲良くしてくれた友達への感謝。
伝えたいことはきっと、全て詰め込んだはずだ。
強制離縁されてしまった私は、ゼノンと婚約をし、一度目では与えられなかった婚約期間中だ。
もう夫婦ではないのは少し寂しいけれど、婚約というお付き合いする時間ができたのは嬉しいことだ。
とはいえ、ゼノンも忙しくてなかなか二人きりで出かけたりはできないのだけれど……。
「ゼノン? 何をしているんですか?」
珍しく広間でゆったりしているのかと思えば、ソファに座り何やら古そうな鏡を持ってクロスで磨いているゼノン。
「ん? あぁ、ちょうどいいところに来た。千奈、ここへ」
僅かに鏡から顔を上げて手招きをするゼノンに、首をかしげながらも彼の隣に座った。
「これは?」
ところどころ曇りとくすみがこびりついていてずいぶん古そうな鏡だけれど……。
「これは宝物庫にある国の宝だ」
「ほうもつ……って、そんなものなんでここに持ち出してるんですか!?」
宝物庫のものってむやみに持ち出しちゃいけないんじゃ!?
「大丈夫だ。それに、これは必要なものだったからな。ちゃんと宰相にも話してあるし、何より、母の意思だ」
「お母さんの?」
「あぁ。昨夜夢の中に出てきて、これのことを教えてくれた」
ゼノンのお母さんが、これを?
これはいったい──。
「これを見て、弟たちのことを思い浮かべてみなさい」
「弟たちのことを?」
よくわからないけれど、何かあるのだろう。
私は離れ離れになった弟達、千歳と千都のことを思った。
二人のことを考えない日なんてない。
いくらこの世界で生きていく決意を固めたとはいえ、彼らをおいて突然いなくなってしまった罪悪感や、そんな自分がここで幸せになって良いのかという迷いもある。
色々な思いを巡らせながら二人の記憶をたどっていると──。
「──姉ちゃん?」
「!?」
え…………?
古びた鏡を見て、私は愕然とした。
だってそこには、私の上の弟──千歳が映っていたのだから。
「なんで? え、ちょ、千都ー!! こっち来い!! 早く!!」
「何だよ兄ちゃん朝っぱらからそんな──」
「良いから早く!!」
バタバタとあわただしい音がして、移りこんだもう一人の少年。
下の弟の千都だ。
何で?
一体どうして……。
「姉ちゃん今どこにいるんだよ!? 突然いなくなって……何で……っ」
千歳と千都の目から止めどなく零れ落ちる雫に、私も鼻の奥がツンとなる。
「ごめっ……ごめんね、突然いなくなって……っ」
何と説明したらいいのかわからない。
説明するにはあまりにファンタジーで、どうすればいいのかわからなかった。
「私が説明しよう」
「ゼノン……」
混乱する私の手にそっと添えられた大きな手。
いつも私に安心をくれる手だ。
──それからゼノンは、二人に丁寧に説明をしてくれた。
そのうえで、彼は弟たちをまっすぐ見つめてこう問うた。
「こちらの世界からそちらに行く魔法は確立されていない。だが、大司教に君たち二人をこちらへ飛ばすことは可能だ。どうする?」──と。
そんなこと、考えたこともなかった。
また一緒に暮らすことができたなら、と考えたことはあるけれど、夢のまた夢だと思っていたから。
だけど、二人には二人の暮らしがある。
それも私はよくわかっている。
こっちにはゲームもないし、仲のいい友達もいない。
テレビもないし、携帯だって使えない。
年頃の子どもに迫るにしては大きすぎる選択だと思う。
だけど──。
「僕、姉ちゃんのところが良い!!」
そう言いだしたのは、下の千都だった。
「俺も。そっちに行く」
続いて千歳もそう言って、ニカッと笑った。
「でも……いいの? 住み慣れた世界から、こっちになんて……。友達だっているでしょう?」
選ばせておいてなんだが、彼らが無理していないだろうか。
それだけが私の中で気がかりだった。
すると二人とも、なんてことはないように笑って言った。
「そりゃ友達いるけどさ、このまま姉ちゃんがいない方が嫌だ」
「うん。もう家族がいなくなるのは嫌なんだ」
「千歳……千都……」
頭をハンマーで殴られたように感じた。
そうだ。
この子たちは幼い頃から立て続けに家族を失ってきたじゃないか。
父と母、おばあちゃん。そして私。
これ以上、家族を失うのは嫌だ。
そんな叫びに、私には聞こえた。
そして──。
***
「姉ちゃん!!」
「千歳!! 千都!!」
小さな二つの身体を優しく包み込む。
暖かい二つのぬくもりの鼓動を感じる。
あれからすぐに大司教は千歳を召喚してくれた。
二人の子どもが施設から消えたことで、あちらの世界ではきっと大騒動になっているだろうけれど、いつかきっとそれも落ち着く。
一応施設の人に容疑がかからないように、二人には自分の筆跡で手紙を残させた。
自分の意思で出ていくのだということ。
施設の皆さんへの感謝。
そして今まで仲良くしてくれた友達への感謝。
伝えたいことはきっと、全て詰め込んだはずだ。