鬼嫁と呼ばれ婚約破棄された私は魔王と強制結婚させられました。腹が立つので人間界滅ぼそうと思います。

魔界の日常に慣れました

「トッポ、今日の朝食もとっても美味しかったです。ありがとうございます」
「よろこんでいただけま~して嬉しゅうございまぁ~す千奈様」

「シャイリー、いつも水やりをありがとうございます。あなたの綺麗な水のおかげで、とっても綺麗な花が咲いていました」
「ぷしゅぅ~~~~~」

「ゴルゴラードも土の浄化、ありがとうございます」
「きゅるきゅるん」

 あの日以来、魔界の住人たちは私の前に姿を現すようになった。
 というのも、私が魔王にそうして欲しいと頼んだのだ。

 私のことを気遣って、私が慣れるまで姿を消していようとしてくれていた彼らのことを知って、きっと人間なんかよりもずっと心優しい人たちばかりなのだとわかったから。

 思った通り、彼らはとても優しく気さくで、すぐに私も馴染んでしまった。

 トッポは鳥人間で、魔王城の料理長をしている。
 水魔のシャイリーは魔王城の外の小さな湖に住み着いていて、城の庭の花や木の水やりをしてくれているし、土竜(つちりゅう)のゴルゴラードはそんな花や木の為に土に栄養をやったり浄化したりしてくれているのだ。

 他にもケルベロスのけるべぇ(名前が無かったので私が名付けた)、グリフォンのアスト(あの日私を見つけてくれたのも彼らしい)など、たくさんの魔物が暮らしている。

 私が封印を解いた門は、トラブル回避のためひとまずそこからでないようにというお達しが下され、毎日がのんびりと過ぎていった。
 そんなある日のことだった。

「ゼノンゼノンゼノンゼノンー!!」
「うるさい」

 広間で読書中のゼノンが本から顔を上げてわずかに眉を顰める。
 彼のこんな表情ももはやいつも通りなのですっかり慣れてしまった。

「すみませんって。でもこれ、見てください」
 そう言って差し出したのは、真っ白な大皿。
「……クッキー?」
 皿の上に並んだハートや星、動物の形のクッキーを見て、ゼノンが首をかしげる。

「えぇ。厨房を使わせてもらって作ったんです。よかったらどうぞ」
「君が作ったのか?」
 訝しげな表情で私を見るゼノンに、私はむっと口を引き結んでから声を上げた。
「何ですかその不審そうな目!! 大丈夫!! 味は保証します!! 私、料理は得意なので!!」

『贅沢は敵だ』を合言葉に祖母に教わった節約料理の数々。
 どれも味は折り紙付きだ。
 もちろんクッキーも良く作ってはおやつに出していた。

「……いただこう」

 信じていないのか、ゼノンは失礼にも渋々といった様子で皿の上のクッキーに手を伸ばすと、それを一つだけ手にして口の中に放り込んだ。

 ボリッボリッボリッ。
 小気味良い音が広間に響いて、ごくんとのどが鳴った。

「……おいしい……!!」

 何だ、その意外そうな顔は。
 信じろ、妻を。

「あまり難しい顔して本を読んでると、顔固まりますよ? たまには甘いものでも食べて、まったりしましょ」
「……あぁ、そうだな」

 眉間の皺がゆるりとほぐれて微笑みあった、その時だった。

「魔王様!!」
 アストが大翼を羽ばたかせて窓辺に降りた。

「どうしたアスト?」
「大変です!! 封印が解かれた門から、人間の子どもが迷い込んだ模様です!!」
「何だと!?」

 封印が解かれた門には鎖などで境界線を作ってもいない。
 まさかあちらから入ってくる人がいるとは思わなかったから。
 大体の人はここを怖がって、魔界との境界である森にすら近寄らないと聞いたけれど……遊んでいて迷い込んでしまったのだろうか?

 もし魔物と接して怖がって誤解してしまったら……人間界と魔界で戦争が起こる可能性だってある。
 どうしよう……私のせいだ……。

 不安に腕を抱きかかえたその時、とん……、と、私の肩に優しく大きな手が触れた。

「ゼノン……」
「大丈夫だ。魔物たちも、人間を感知した際には姿を消すことはわかっている。それに、もし戦争のきっかけになったとしても、本気を出した私たちが負けるなどありえない。安心しろ」

 安心できねぇ……!!
 そもそも戦争なんて駄目だから!!

「と、とにかく、急いで探しに行きましょう!!」
「あぁ。しっかり掴まっていろ」
「へ? きゃぁっ!?」

 ゼノンは頷くと、当たり前のように私を横抱きにして、窓から飛び立った。






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