鬼嫁と呼ばれ婚約破棄された私は魔王と強制結婚させられました。腹が立つので人間界滅ぼそうと思います。
種族の違い
「ちょ、ぜ、ゼノン!? 降ろし──」
「この方が早い。無駄口叩いてないで、子どもを探せ」
鬼畜……!!
でも確かに空からの方が探しやすいのは事実。
しっかり探さなきゃ。
私はゼノンに抱えられたまま、じっくりと辺りを見渡す。
森が静かだ。
人間が入り込んだことを知って、魔物たちも姿を消して様子をうかがっているのだろう。
「~~~~、~~~~」
「? 泣き声?」
かすかに聞こえる鳴き声に耳を傾けると、私は声の聞こえる方へ視線を向け、目を凝らした。
すると木々の間から男の子の姿が──。
「いた!! ゼノン、そこの紫がかった木のところに降ろしてください!!」
「わかった」
ゼノンは頷くと、ゆっくりと降下をはじめ、紫の木の下へと私を抱えて降り立った。
「ひっ!? ま、魔族!?」
空から降りてきた私たちを見るなりに恐怖に顔を歪め、後ずさる男の子。
歳は私の下の弟と同じくらいかしら?
私はなるべく怖がらせないようににっこりと微笑み、男の子の目線までしゃがんでから声をかけた。
「怖がらなくて大丈夫。君を助けに来たんだよ」
「た、助けに?」
ちらり、と視線が私の隣のゼノンへと注がれ、男の子の表情が再びこわばった。
しまった。
小さな子にゼノンの無表情は刺激が強いのか……!!
「だ、大丈夫!! この人、顔は怖いけどとっても優しいから!!」
「おい」
「それよりも──」
私は男の子の右腕に視線を向ける。
身体のところどころに傷が出来ているけれど、右腕はひどい。
血が出るとともに青く腫れているし、折れているようにも見受けられる。
「痛い、よね? すぐに手当てをして、町に帰してあげるから。──ゼノン」
「あぁ。──フラン!!」
私の言わんとしていることを瞬時に悟ったゼノンは、すぐにフランを召喚した。
ふわりと黒い霧に紛れて現れるフランさんに、男の子の顔が再びこわばる。
「大丈夫。この人も悪い人じゃないから」
「で、でも!! 緑だよ!?」
この反応も普通と言えば普通なんだろう。
私たち人間にはありえない肌色なのだから。
だけど──。
「肌の色なんて関係ない。人間でも心無いことを言ったりしたりする人はいるでしょう? そんな人間なんかよりもずっと、ここに居る人たちは心優しい人たちだと思ってる。だから大丈夫。私たちを信じて」
私の言葉をじっと聞き終えてから、少し考えたように俯き、そして再び私を見て、男の子はゆっくりと頷いた。
それに安心したように頬を緩めると、フランさんは男の子の右腕に手をかざし、ゆっくりと力を送り込んでいく。
「え? 傷が……」
呆然と言葉を発する男の子。
そりゃそうよね。
あんなに深かった傷が塞がっていくんだもの。
かんぜんには傷跡は無くならないものの、血は止まって、痛みに歪んでいた男の子の顔も落ち着いたようだ。
「さぁ、これで大丈夫ですよ。他の小さな傷も治しておきましょうね。どんなに小さい傷も、痛みには変わりないのですから。傷跡も、しばらくすれば綺麗になるでしょう」
優しく微笑んで、今度はところどころにある小さな傷にも手をかざしていくフランさんに、男の子が小さく「……ありがとう」と言った。
***
「もうどこも痛くないですか?」
「う、うん。平気。……あの、ありがとう……!! 助けてくれて……」
フランさんの治療ですっかり痛みの無くなった男の子は、ぎこちなくもそうお礼を言って笑った。
それを見てフランさんもにっこりと微笑んで、それから私たちに向き直って
「それでは私は失礼しますね」
と言ってから、また黒い霧に紛れて消えた。
「消えた!?」
うん、当然の反応よね。
私もまだ慣れないもの。
突然現れたり消えたり。
部屋に入る時はドアから入ってくれるようにはなったけれど、たまに外で突然現れる時には肩を跳ね上がらせてしまう。
「ははは……。魔族だからね。でも、とっても優しい人だったでしょう?」
「……うん。優しかった。……僕、魔族は皆怖い人だって思ってたのに……お姉ちゃんたちは違うんだね」
一般的に魔族は嫌悪される存在として知られている。
近づけば残虐に殺されるから魔界には近づいてはならない。
私もここにきてすぐそれを教えられた。
実際は人間の方が残虐だったわけだけれど。
「私は人間だけど、この男の人もさっきの人も、この魔界の魔物たち皆、とっても気さくで優しい人ばかりだよ。君、崖の上の町の子? ま、まさか、崖から落ちてきたの?」
私の問いかけに、男の子は小さくうなずいた。
まじか。
でも崖から落ちたならあの怪我の酷さも納得がいく。
生きてただけで御の字だ。
「僕、皆とかくれんぼをしてて……ロープの外ならだれにも見つからないだろうって……。そしたら落ちちゃって……」
ロープ?
私が首をかしげてゼノンを見上げると、ゼノンが「魔界へ近づくのを防止するためのものだろう」と説明した。
なるほど。
町は町で対策を取っているのね。
「そっか……。ゼノン、この子を町に連れて行ってあげられないですか?」
さすがに子供が崖をのぼるのは難しいだろう。
なら空から送り届けてあげるのが一番だけれど……。
「……それしかないだろうな」
渋々、と言った様子でゼノンが頷くと、男の子の表情が和らいだ。
「よかったね!!」
「うん!! ありがとう、吸血鬼さん!!」
吸血鬼!?
確かに容貌的にはそれっぽいけど……!!
だめだ、似合いすぎて笑いが……!!
「笑うな。人間、私は吸血鬼ではない。魔王ゼノンディウスだ」
「ゼノンデッッ?」
「……ゼノンで良い」
舌噛みそうな名前だものね。
うん、仕方ない。
諦めたようにそう言ってから、ゼノンは男の子を軽々と片手で抱きかかえてから、私を見て左手を差し出した。
「へ?」
「来い」
「え、いや、重量オーバー……」
「問題ない。それに、魔王である私だけでは町の住民を怖がらせるだけだ」
「ぁ……」
そうだ。
見た目からして魔族なゼノンだ。
一人で行っても子どもを攫おうとする魔族だと誤解されるのがオチだろう。
「じゃ、じゃぁ……よろしくお願いします」
「あぁ」
そして私は、ゼノンの左腕に抱きかかえられて、空に飛んだ。
「この方が早い。無駄口叩いてないで、子どもを探せ」
鬼畜……!!
でも確かに空からの方が探しやすいのは事実。
しっかり探さなきゃ。
私はゼノンに抱えられたまま、じっくりと辺りを見渡す。
森が静かだ。
人間が入り込んだことを知って、魔物たちも姿を消して様子をうかがっているのだろう。
「~~~~、~~~~」
「? 泣き声?」
かすかに聞こえる鳴き声に耳を傾けると、私は声の聞こえる方へ視線を向け、目を凝らした。
すると木々の間から男の子の姿が──。
「いた!! ゼノン、そこの紫がかった木のところに降ろしてください!!」
「わかった」
ゼノンは頷くと、ゆっくりと降下をはじめ、紫の木の下へと私を抱えて降り立った。
「ひっ!? ま、魔族!?」
空から降りてきた私たちを見るなりに恐怖に顔を歪め、後ずさる男の子。
歳は私の下の弟と同じくらいかしら?
私はなるべく怖がらせないようににっこりと微笑み、男の子の目線までしゃがんでから声をかけた。
「怖がらなくて大丈夫。君を助けに来たんだよ」
「た、助けに?」
ちらり、と視線が私の隣のゼノンへと注がれ、男の子の表情が再びこわばった。
しまった。
小さな子にゼノンの無表情は刺激が強いのか……!!
「だ、大丈夫!! この人、顔は怖いけどとっても優しいから!!」
「おい」
「それよりも──」
私は男の子の右腕に視線を向ける。
身体のところどころに傷が出来ているけれど、右腕はひどい。
血が出るとともに青く腫れているし、折れているようにも見受けられる。
「痛い、よね? すぐに手当てをして、町に帰してあげるから。──ゼノン」
「あぁ。──フラン!!」
私の言わんとしていることを瞬時に悟ったゼノンは、すぐにフランを召喚した。
ふわりと黒い霧に紛れて現れるフランさんに、男の子の顔が再びこわばる。
「大丈夫。この人も悪い人じゃないから」
「で、でも!! 緑だよ!?」
この反応も普通と言えば普通なんだろう。
私たち人間にはありえない肌色なのだから。
だけど──。
「肌の色なんて関係ない。人間でも心無いことを言ったりしたりする人はいるでしょう? そんな人間なんかよりもずっと、ここに居る人たちは心優しい人たちだと思ってる。だから大丈夫。私たちを信じて」
私の言葉をじっと聞き終えてから、少し考えたように俯き、そして再び私を見て、男の子はゆっくりと頷いた。
それに安心したように頬を緩めると、フランさんは男の子の右腕に手をかざし、ゆっくりと力を送り込んでいく。
「え? 傷が……」
呆然と言葉を発する男の子。
そりゃそうよね。
あんなに深かった傷が塞がっていくんだもの。
かんぜんには傷跡は無くならないものの、血は止まって、痛みに歪んでいた男の子の顔も落ち着いたようだ。
「さぁ、これで大丈夫ですよ。他の小さな傷も治しておきましょうね。どんなに小さい傷も、痛みには変わりないのですから。傷跡も、しばらくすれば綺麗になるでしょう」
優しく微笑んで、今度はところどころにある小さな傷にも手をかざしていくフランさんに、男の子が小さく「……ありがとう」と言った。
***
「もうどこも痛くないですか?」
「う、うん。平気。……あの、ありがとう……!! 助けてくれて……」
フランさんの治療ですっかり痛みの無くなった男の子は、ぎこちなくもそうお礼を言って笑った。
それを見てフランさんもにっこりと微笑んで、それから私たちに向き直って
「それでは私は失礼しますね」
と言ってから、また黒い霧に紛れて消えた。
「消えた!?」
うん、当然の反応よね。
私もまだ慣れないもの。
突然現れたり消えたり。
部屋に入る時はドアから入ってくれるようにはなったけれど、たまに外で突然現れる時には肩を跳ね上がらせてしまう。
「ははは……。魔族だからね。でも、とっても優しい人だったでしょう?」
「……うん。優しかった。……僕、魔族は皆怖い人だって思ってたのに……お姉ちゃんたちは違うんだね」
一般的に魔族は嫌悪される存在として知られている。
近づけば残虐に殺されるから魔界には近づいてはならない。
私もここにきてすぐそれを教えられた。
実際は人間の方が残虐だったわけだけれど。
「私は人間だけど、この男の人もさっきの人も、この魔界の魔物たち皆、とっても気さくで優しい人ばかりだよ。君、崖の上の町の子? ま、まさか、崖から落ちてきたの?」
私の問いかけに、男の子は小さくうなずいた。
まじか。
でも崖から落ちたならあの怪我の酷さも納得がいく。
生きてただけで御の字だ。
「僕、皆とかくれんぼをしてて……ロープの外ならだれにも見つからないだろうって……。そしたら落ちちゃって……」
ロープ?
私が首をかしげてゼノンを見上げると、ゼノンが「魔界へ近づくのを防止するためのものだろう」と説明した。
なるほど。
町は町で対策を取っているのね。
「そっか……。ゼノン、この子を町に連れて行ってあげられないですか?」
さすがに子供が崖をのぼるのは難しいだろう。
なら空から送り届けてあげるのが一番だけれど……。
「……それしかないだろうな」
渋々、と言った様子でゼノンが頷くと、男の子の表情が和らいだ。
「よかったね!!」
「うん!! ありがとう、吸血鬼さん!!」
吸血鬼!?
確かに容貌的にはそれっぽいけど……!!
だめだ、似合いすぎて笑いが……!!
「笑うな。人間、私は吸血鬼ではない。魔王ゼノンディウスだ」
「ゼノンデッッ?」
「……ゼノンで良い」
舌噛みそうな名前だものね。
うん、仕方ない。
諦めたようにそう言ってから、ゼノンは男の子を軽々と片手で抱きかかえてから、私を見て左手を差し出した。
「へ?」
「来い」
「え、いや、重量オーバー……」
「問題ない。それに、魔王である私だけでは町の住民を怖がらせるだけだ」
「ぁ……」
そうだ。
見た目からして魔族なゼノンだ。
一人で行っても子どもを攫おうとする魔族だと誤解されるのがオチだろう。
「じゃ、じゃぁ……よろしくお願いします」
「あぁ」
そして私は、ゼノンの左腕に抱きかかえられて、空に飛んだ。