浪花節だよ統合失調症

必死の帰路

必死の帰路

さて皆さん、これから語らせてもらいますのは、ひとりの男、拓也の苦悩の帰路でございます。妹にメールを打ち続けるも、返事は一向に返ってきまへん。それでも、打ち込む文字だけが彼の心を少しだけ安らげてくれる、そんな儚い心持ちでありました。

高速道路を西へ西へと走らせ、拓也の目指すは福岡の故郷。しかし、まずは関西を抜け出さなあかん。関西の都会、車の多さが彼の心にさらに重荷を乗せます。気力で広島まではノンストップで突き進むつもりや。

ラジオをつければ、夜半から寒くなるとのこと。雪の兆しが見えますが、彼の車はスタッドレスタイヤに履き替えてあり、少々の雪道には対応できる。音楽が彼を支え、気力を引っ張って進ませているんや。しかし、広島は宮島のパーキングエリアに近づく頃、休憩を取ることにしました。そう、その時や、彼の頭にまた幻聴が襲ってきた。

聞こえてくるは、中森明菜の「難破船」。
♪ たかが恋なんて 忘れればいい 泣きたいだけ泣いたら、目の前に違う愛が見えてくるかもしれない ♪
この歌詞が、彼の心の奥底を突き刺すんや。拓也の目からは、涙がポタリ、ポタリと大粒で落ちていく。心がズタズタに引き裂かれ、彼はひとりの車中で泣くんや。まるで自分の心が、難破船のように沈んでいくのを感じながら。

「これが本当に俺の病気なんやろか?」そう思う彼。しかし、その自問に対して、誰も答えてはくれん。統合失調症――強い自分と弱い自分が交互に襲ってくる。時には自分でも自分が理解できへん。もしや、天才か、それとも狂気か?そんな思いが頭をよぎる。

「これが最後のドライブかもしれん」。彼はそう思いながら、車のハンドルを握りしめる。そして再び出発。今度は山口県に入った頃、パラパラと雪が舞い始める。窓ガラスにぶつかる雪が、彼の心にさらなる不安を呼び覚ます。しかし、拓也はまだ進む。九州まであと少し、50キロ。故郷の地までもう少しや。

「運転、がんばれ!」と自分を鼓舞しながらも、彼の脳裏にふとよみがえるのは、新聞の見出し――「心神喪失で車の操縦を誤り事故」と。そんな見出しを見たら、死んでも浮かばれん。心の中で叫びながら、彼は必死にハンドルを握りしめ、過去の記憶が彼の脳裏にフラッシュバックするんや。

この拓也の物語、まさに生きるか死ぬか、精神との戦いや。
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