マイナスの矛盾定義
さっきの店員達との距離がある程度空いてから、まともな答えが返ってこないことを予想しつつも、一応聞いてみた。
「何のつもり?」
「こいつは違うってアピール」
「え?」
「軽い女に見られんのは嫌だろ?」
そういえばアランには沢山の女性が寄ってくると聞いたことがある。
そして、アランはそんな女性達の相手をするとも。
要するに、普段その女性達にしないような行動をすることで、私がそのような女性達の1人として見られないようにしたってこと…なのだろうか。
私は敵組織の人間だってのに、変なところで気ぃ使う奴ね。
その気遣いに対してだけは感謝の気持ちを伝えようとしたけれど、仮にも私を捕まえている組織の一員にお礼を言うのは気が引けて、結局何も言わなかった。
アランと隣に並んでテーブルに座り、繋いでいない方の手でハンバーガーを取り、一旦テーブルに置いて包み紙を開ける。
この施設内にある店で買った物とはいえ、アランが何か妙な物を入れた様子はないし、店から直接渡された物だから安心できる。
ひたすらもぐもぐしていると隣からの視線を感じ、そちらに顔を向けると、何故かアランに笑われた。
何こいつ、見てないでさっさと食べなさいよ。
「黙って飯食ってりゃまぁまぁ可愛げあんのに」
私のことを言っているのだと理解するのに数秒掛かった。
また嫌味かと思って無視すると、アランは私の肩甲骨の辺りに人差し指の指先を当て、「ばーん」と耳元で冗談っぽく囁く。
ぞくりとした感覚が耳元から広がり、さすがに無視できなくて、口の中の物を飲み込んでから「何よ?」と聞けば、
「また逃げられても困るからな。背中の羽撃ってやろうと思って」
楽しげにそんなことを言われた。
何で私鳥扱いされてるのかしら…鳥は素敵だと思うけど、一応人間なのにそう扱われるのは気分の良いものじゃないわね。
もし本当に鳥だったなら、こそっと飛んでどこか別の場所へ逃げてるところだ。
「私の治癒力をなんだと思ってるの?羽くらい撃たれたってすぐ治るわ」
そう嫌味を返してやれば、アランは「かっわいくねぇなぁ…」と苦笑にも似た笑みを浮かべながら言い、ハンバーガーを食べ始めた。
店内にはポップなミュージックが流れている。
私たちの他にも座って食べている客は何人かいるけれど、こちらもやはり私たちが手を繋いでいるからかチラチラと好奇の目を向けてきているのが分かる。
アランの知名度を舐めていた。
これならまだ手錠つきできた方が周囲の人々もある程度事情を汲み取ってくれたかもしれない。
まぁ、今更遅いわよね…とできるだけ気にしないようにしてハンバーガーを食べていると。
「やっほーアリスちん。裏切り者として今頃どんな酷い扱い受けてんだろうと思ってたんだけど、楽しくおデート中?アランさんも偶然っすね」
唐突に出現し、大きなサイズのドリンクとハンバーガー3つが乗ったトレイをテーブルに置くラベンダーブラックの髪をした男。
彼はそのまま無遠慮にテーブルを挟んだ向かいの席に座り、サングラスを外した。
「誰だったかしら」
「オイオーイ、忘れんなよ。陽だよ、陽」
唇を尖らせながら不服そうに言うツーブロックの男の名前は陽――6階のメンバーを指揮しているうちの1人。
自分が潜入した敵組織の重要人物なのだから、勿論覚えている。
というか、そのトレイに乗っている分は全部1人で食べるのかしら。意外と大食いね。
「俺、ついさっき司令官から第二の見張り役に任命されちったところなんすよ。ま、基本は受け付けチャンがいるから用はねーらしいんすけど。まーたラスティさんが余計なことしたんっしょ?」
“司令官”はブラッドさんのことで、“受け付けチャン”はニーナちゃんのことだろう。
アランに向けていた視線を私に向けた陽は、聞いてもいないのにベラベラ喋り始める。
「事情知ってる奴はこの組織内でも少ねーし、見張り役になれる人材も限られてんだよな。チャロには言えないっしょ?あいつご命令とあらば無理にでも抱え込むからなー。結果的に俺がしないといけねーってワケ。最近は新人の指導で手一杯なくせに、何かあれば遅くまで起きてやろうとするし。ちょっとは休めってんだよ。つか久々に食べたけどやっぱこれうめーな」
愚痴を零すようにそんなことを言いながらもぐもぐとハンバーガーを頬張る陽。
食べるか喋るかどちらかにしてほしい。
横にいるアランが、大して興味があるわけでもないが、という風に陽に質問を投げかけた。
「お前って結局チャロのことどう思ってんだ?」
その質問の意味を図りかね、暫し考える。
どう思っているのかとはどういうことだろう。
指揮官2人の間に何か問題でもあるのだろうか。
確かに陽がチャロさんのことを話している時、いつものちゃらけた雰囲気がなかった。
「チャロ?」
アランに対し陽は、くだらないことを聞くな、とでもいう風にふっと笑いを漏らす。
「俺はオススメできねーっすね」
椅子の背もたれに寄りかかりドリンクを一口飲んだ陽は、その後ぽつりと言った。
「ま…どこか遠くに閉じ込めておきたいオンナノコではあるわな」
ようやく何の話か分かった。
アランは陽にチャロさんのことを異性としてどう思ってるかって聞いたのね…。
なるほど、陽とチャロさんって周りからはそういう風に見られてるのか。興味は更々ないけれど。
「ふーん。俺には分かんねぇな」
「そ?ま、いいんすよ、理解してもらえなくても。つかアランさんはぶっちゃけどうなんすか?」
「あ?」
「…あー…、いや、何でもね。やっぱいいっす」
陽が私に一瞬視線を向けた…ような気がしたが、見返そうと思った時には手元のハンバーガーに視線を戻していた。
そして、話題が大きく変わる。
「それにしても、まさか国がそんな実験してるとはな~。戦時中じゃあるまいし。アリスちんも大変だよな。この組織にいりゃこの国の闇なんていくらでも見えてくっけど、さすがに聞いたことなかったわ」
さほど驚いているようには見えない。
でも、知らなかったのは事実だろう。
裏の世界じゃそこそこ知られている話のようだけれど、表の世界では何重にも隠蔽されているはずだ。
「ま、今更この国が何してようが驚きはしねーけど。この組織だって一応国と繋がってる身だし、色々汚ねーことはやってるし。この組織、ボスがトップになる前は国からの命令で反政府デモ隊の奴らの処分にも関わってたらしいぜ?元は情報管理組織なんだから、大人しく情報だけ扱っときゃ良かっ、」
ガタンッ。
一瞬だった―――アランが陽を椅子ごと蹴り飛ばしたのは。
陽は勢いよく倒れ…いや、この場合吹っ飛んだと表現する方が正しいかもしれない。
いつアランが椅子から立ち上がったのか、私には分からなかった。
「いっっってぇ~…」
「何のつもり?」
「こいつは違うってアピール」
「え?」
「軽い女に見られんのは嫌だろ?」
そういえばアランには沢山の女性が寄ってくると聞いたことがある。
そして、アランはそんな女性達の相手をするとも。
要するに、普段その女性達にしないような行動をすることで、私がそのような女性達の1人として見られないようにしたってこと…なのだろうか。
私は敵組織の人間だってのに、変なところで気ぃ使う奴ね。
その気遣いに対してだけは感謝の気持ちを伝えようとしたけれど、仮にも私を捕まえている組織の一員にお礼を言うのは気が引けて、結局何も言わなかった。
アランと隣に並んでテーブルに座り、繋いでいない方の手でハンバーガーを取り、一旦テーブルに置いて包み紙を開ける。
この施設内にある店で買った物とはいえ、アランが何か妙な物を入れた様子はないし、店から直接渡された物だから安心できる。
ひたすらもぐもぐしていると隣からの視線を感じ、そちらに顔を向けると、何故かアランに笑われた。
何こいつ、見てないでさっさと食べなさいよ。
「黙って飯食ってりゃまぁまぁ可愛げあんのに」
私のことを言っているのだと理解するのに数秒掛かった。
また嫌味かと思って無視すると、アランは私の肩甲骨の辺りに人差し指の指先を当て、「ばーん」と耳元で冗談っぽく囁く。
ぞくりとした感覚が耳元から広がり、さすがに無視できなくて、口の中の物を飲み込んでから「何よ?」と聞けば、
「また逃げられても困るからな。背中の羽撃ってやろうと思って」
楽しげにそんなことを言われた。
何で私鳥扱いされてるのかしら…鳥は素敵だと思うけど、一応人間なのにそう扱われるのは気分の良いものじゃないわね。
もし本当に鳥だったなら、こそっと飛んでどこか別の場所へ逃げてるところだ。
「私の治癒力をなんだと思ってるの?羽くらい撃たれたってすぐ治るわ」
そう嫌味を返してやれば、アランは「かっわいくねぇなぁ…」と苦笑にも似た笑みを浮かべながら言い、ハンバーガーを食べ始めた。
店内にはポップなミュージックが流れている。
私たちの他にも座って食べている客は何人かいるけれど、こちらもやはり私たちが手を繋いでいるからかチラチラと好奇の目を向けてきているのが分かる。
アランの知名度を舐めていた。
これならまだ手錠つきできた方が周囲の人々もある程度事情を汲み取ってくれたかもしれない。
まぁ、今更遅いわよね…とできるだけ気にしないようにしてハンバーガーを食べていると。
「やっほーアリスちん。裏切り者として今頃どんな酷い扱い受けてんだろうと思ってたんだけど、楽しくおデート中?アランさんも偶然っすね」
唐突に出現し、大きなサイズのドリンクとハンバーガー3つが乗ったトレイをテーブルに置くラベンダーブラックの髪をした男。
彼はそのまま無遠慮にテーブルを挟んだ向かいの席に座り、サングラスを外した。
「誰だったかしら」
「オイオーイ、忘れんなよ。陽だよ、陽」
唇を尖らせながら不服そうに言うツーブロックの男の名前は陽――6階のメンバーを指揮しているうちの1人。
自分が潜入した敵組織の重要人物なのだから、勿論覚えている。
というか、そのトレイに乗っている分は全部1人で食べるのかしら。意外と大食いね。
「俺、ついさっき司令官から第二の見張り役に任命されちったところなんすよ。ま、基本は受け付けチャンがいるから用はねーらしいんすけど。まーたラスティさんが余計なことしたんっしょ?」
“司令官”はブラッドさんのことで、“受け付けチャン”はニーナちゃんのことだろう。
アランに向けていた視線を私に向けた陽は、聞いてもいないのにベラベラ喋り始める。
「事情知ってる奴はこの組織内でも少ねーし、見張り役になれる人材も限られてんだよな。チャロには言えないっしょ?あいつご命令とあらば無理にでも抱え込むからなー。結果的に俺がしないといけねーってワケ。最近は新人の指導で手一杯なくせに、何かあれば遅くまで起きてやろうとするし。ちょっとは休めってんだよ。つか久々に食べたけどやっぱこれうめーな」
愚痴を零すようにそんなことを言いながらもぐもぐとハンバーガーを頬張る陽。
食べるか喋るかどちらかにしてほしい。
横にいるアランが、大して興味があるわけでもないが、という風に陽に質問を投げかけた。
「お前って結局チャロのことどう思ってんだ?」
その質問の意味を図りかね、暫し考える。
どう思っているのかとはどういうことだろう。
指揮官2人の間に何か問題でもあるのだろうか。
確かに陽がチャロさんのことを話している時、いつものちゃらけた雰囲気がなかった。
「チャロ?」
アランに対し陽は、くだらないことを聞くな、とでもいう風にふっと笑いを漏らす。
「俺はオススメできねーっすね」
椅子の背もたれに寄りかかりドリンクを一口飲んだ陽は、その後ぽつりと言った。
「ま…どこか遠くに閉じ込めておきたいオンナノコではあるわな」
ようやく何の話か分かった。
アランは陽にチャロさんのことを異性としてどう思ってるかって聞いたのね…。
なるほど、陽とチャロさんって周りからはそういう風に見られてるのか。興味は更々ないけれど。
「ふーん。俺には分かんねぇな」
「そ?ま、いいんすよ、理解してもらえなくても。つかアランさんはぶっちゃけどうなんすか?」
「あ?」
「…あー…、いや、何でもね。やっぱいいっす」
陽が私に一瞬視線を向けた…ような気がしたが、見返そうと思った時には手元のハンバーガーに視線を戻していた。
そして、話題が大きく変わる。
「それにしても、まさか国がそんな実験してるとはな~。戦時中じゃあるまいし。アリスちんも大変だよな。この組織にいりゃこの国の闇なんていくらでも見えてくっけど、さすがに聞いたことなかったわ」
さほど驚いているようには見えない。
でも、知らなかったのは事実だろう。
裏の世界じゃそこそこ知られている話のようだけれど、表の世界では何重にも隠蔽されているはずだ。
「ま、今更この国が何してようが驚きはしねーけど。この組織だって一応国と繋がってる身だし、色々汚ねーことはやってるし。この組織、ボスがトップになる前は国からの命令で反政府デモ隊の奴らの処分にも関わってたらしいぜ?元は情報管理組織なんだから、大人しく情報だけ扱っときゃ良かっ、」
ガタンッ。
一瞬だった―――アランが陽を椅子ごと蹴り飛ばしたのは。
陽は勢いよく倒れ…いや、この場合吹っ飛んだと表現する方が正しいかもしれない。
いつアランが椅子から立ち上がったのか、私には分からなかった。
「いっっってぇ~…」