マイナスの矛盾定義
よくもまぁ敵に対して自分達の目的をべらべらと…それだけ舐められてるってこと?
この組織が管理している情報の破壊…そんなことをしたら国家が混乱することになる。
はったりかもしれないけれど、一応対策は取っておいた方が良さそうだ。
と言っても、8階に侵入する気なら無駄。
厳重なセキュリティ機能が施されているし、8階の壁やドアは世界トップクラスの強度を誇る。例え近くで爆弾を爆発させようと壊れない。
物理的な侵入は不可能。
…となると。
「こっちのコンピュータに侵入するつもり?」
「そうなるね。ボクらの仲間にはその手のやり方に慣れた奴が多いんだ。今こうしているうちにも侵入を進めてると思うよ」
ぷっと思わず吹き出してしまった。なんて考えが甘いのだろう。
「そっちにどれだけ優秀なクラッカーがいようと…この組織には世界最高レベルのクラッキング技術を持った人間がいる。もっと酷い方法で仕返しされるだけ」
そう――優秀組のリーダーであり、この組織の司令官でもあるブラッド君なら、この組織の持つ情報への侵入を絶対に許さない。
いかなる方法であったとしても、サイバー攻撃に屈することは絶対にない。
どんな連中であろうが、クラッキング技術でうちの司令官に敵う奴なんていない。
「あ、やっぱりそうなりますのね。使い捨ての駒に頼んでおいて正解でしたわ」
「あいつ、ピンチになるといつも保身の為にボクらの組織の情報を売るもんね。リーダーもいい加減イライラしてた様子だったし、ここの奴らに居場所特定されてピンチになればいいよ。知ーらない」
あなた達の目的は果たされないと伝えたつもりだったのに、男女はけろっとした顔で近くの店の電灯や商品に発砲を続ける。「きゃあっ」と店員が震えているのが分かった。
「今回は“いかにリバディーの本拠地にダメージを与えられるか”が問題ですもの。それによって報酬が変わるんです。情報の破壊が難しいとなれば、物理的に破壊できる物を破壊するまでですわ」
こいつら…ただこの建物を滅茶苦茶にしたいだけ…?
そんなことをしようとするのは、この組織に復讐しようとしている連中だけ。
犯罪者から恨みを買うことはよくあるから、珍しいことじゃないけど…。
さっきアリスちゃんの名前が出ていたことにも関係があるんだろうか。
店員達も何とか避難させないと…人数はこちらの方が上とはいえ、武器も揃っておらず、守らなければならない人間の多いこの状況下では、何とも不利だ。
「どうやってここに入ったの?」
別の質問を投げかけると、今度は女の方がくすっと笑う。
「ここ、上の階への移動手段がエレベーターしかないのでしょう?その為侵入が難しいようにも思われますが、見方を変えればエレベーター使用時のカードが奪われただけで致命的ですわよね。自分たちは強い、恐れられているという油断からこんなお粗末な警備になったのかもしれませんけど…このカードなら入手済みですし、我々の組織の技術でコピーしてここへ来る全員に渡してありますわ」
泡のようなワンポイントのあるそのカードは、アタシ達組織の人間しか持っていないはずの物だった。
カードさえあれば、後は受け付けを突破すれば良いだけ…。
確かに、これではいつ何が起こるか分からないとは思っていた。
カードは一般の店員にも渡っているわけだし、この建物に通う最中にカードを狙う奴に襲われでもしたら終わり。このシステムの改善を提案するべきだろう。
―――と。
目立たないが、女のスカートに向かって何か細い光が向けられていることに気付いた。
数秒後、ボッ、と女のふりふりな黒のスカートに火がついて。
振り返ると、私の後ろの物陰から低姿勢で女にレーザーポインターを向ける仲間の姿があった。危険を察知して駆けつけたのだろう。
あれは強力なレーザーポインターだ。使い方によっては火事だって起こせる。
男が素早く発砲するが、仲間はすぐに物陰に隠れた為に当たらない。
「これ、お気に入りですのに…!」
「どんまいだね。脱いで火消しなよ、ボクはあいつを始末してくるから」
男はそう言ってこちらへ向かって歩いて来て、動かないアタシを降参したものと見なしたのか通り過ぎ、物陰に向かって発砲を続ける。
仲間は銃弾をうまく避けながら物陰から物陰へと移ってゆく。
「指揮官、6階へ行ってください!6階にはまだ大勢のメンバーがいます!彼らを指示して1階まで送らせてください!侵入者はまだ沢山いるはずです!せめて1階に留めなければ!」
走りながら仲間がそう言うのとほぼ同時に、私はスカートの消化に気を取られている女の方へ走り込み、その銀髪を引っ張って姿勢を崩し、エレベーターのボタンを押した。
拳銃を構えようとした女は火の熱さに一瞬顔を顰め、動きが止まった――その隙に顔を横から蹴り飛ばし、倒れ込んだ女の手首を踏み付け、銃を奪う。
「動けば撃つよ」
女に銃口を向けたまますぐにエレベーターの近くへと寄り、エレベーター内に誰かいる可能性も十分考慮しながら、ドアが開くのを待つ。
数秒した後エレベーターはこの階に止まり、幸運にも他の侵入者は誰も使っていなかったようで、すぐに中に入れた。
――まぁ、動かなくても撃つんだけど。
ドアが閉まる前に、引き金を引こうとした――が。
ぞくっと寒気がして顔を上げる。
アタシの仲間を追っていたはずの男が、ボサボサの前髪の隙間から射るような視線をこちらへと向けていた。
「……っ」
銃口はアタシとは反対方向に向けられているはずなのに、それよりもその視線を恐ろしく感じて、動けなくなった。
そして、エレベーターのドアが閉まる。
「…1人逃してしまいましたわ」
「もー、報酬の8割はボクが貰っちゃおうかな」
「多すぎませんこと!?」
―――…これが、アタシの予期していなかった、大乱闘の幕開けだった。
《《<--->》》
-confess-
ラスティ君は臆することなくシャロンに射るような視線を向ける。
「――そろそろ来ると思ってたよ」
その声音はどこかこの状況を愉しんでいるようにも思えた。
組織のリーダー自ら1人でここまで来たのだ。
特にラスティ君にとっては、大嫌いな相手とサシでやり合うことのできる絶好の機会。
「随分余裕そうだねぇ。先に言っとくけど、アリスを人質にしようったって無駄だよ?」
「そうだね。確かにアリスちゃんは死ぬ心配ないし、生死をかけた脅しは通用しない。…でも、アリスちゃんの操については、脅せる状況ではあるよね?」
うへぇ、なんて陽が私の真後ろで嫌そうな声を出す。
ラスティ君はシャロンが言うことを聞かなければ性的な意味で私に手を出すかもしれない、と言っているのだ。
誰が手を出すのかと言えば、私に最も近い位置にいる陽だろう。
汚れ仕事を押し付けられたわけだ。そりゃ嫌よね。
こいつ、なんだかんだで女性に手荒な真似をするのは苦手そうだし。
この組織が管理している情報の破壊…そんなことをしたら国家が混乱することになる。
はったりかもしれないけれど、一応対策は取っておいた方が良さそうだ。
と言っても、8階に侵入する気なら無駄。
厳重なセキュリティ機能が施されているし、8階の壁やドアは世界トップクラスの強度を誇る。例え近くで爆弾を爆発させようと壊れない。
物理的な侵入は不可能。
…となると。
「こっちのコンピュータに侵入するつもり?」
「そうなるね。ボクらの仲間にはその手のやり方に慣れた奴が多いんだ。今こうしているうちにも侵入を進めてると思うよ」
ぷっと思わず吹き出してしまった。なんて考えが甘いのだろう。
「そっちにどれだけ優秀なクラッカーがいようと…この組織には世界最高レベルのクラッキング技術を持った人間がいる。もっと酷い方法で仕返しされるだけ」
そう――優秀組のリーダーであり、この組織の司令官でもあるブラッド君なら、この組織の持つ情報への侵入を絶対に許さない。
いかなる方法であったとしても、サイバー攻撃に屈することは絶対にない。
どんな連中であろうが、クラッキング技術でうちの司令官に敵う奴なんていない。
「あ、やっぱりそうなりますのね。使い捨ての駒に頼んでおいて正解でしたわ」
「あいつ、ピンチになるといつも保身の為にボクらの組織の情報を売るもんね。リーダーもいい加減イライラしてた様子だったし、ここの奴らに居場所特定されてピンチになればいいよ。知ーらない」
あなた達の目的は果たされないと伝えたつもりだったのに、男女はけろっとした顔で近くの店の電灯や商品に発砲を続ける。「きゃあっ」と店員が震えているのが分かった。
「今回は“いかにリバディーの本拠地にダメージを与えられるか”が問題ですもの。それによって報酬が変わるんです。情報の破壊が難しいとなれば、物理的に破壊できる物を破壊するまでですわ」
こいつら…ただこの建物を滅茶苦茶にしたいだけ…?
そんなことをしようとするのは、この組織に復讐しようとしている連中だけ。
犯罪者から恨みを買うことはよくあるから、珍しいことじゃないけど…。
さっきアリスちゃんの名前が出ていたことにも関係があるんだろうか。
店員達も何とか避難させないと…人数はこちらの方が上とはいえ、武器も揃っておらず、守らなければならない人間の多いこの状況下では、何とも不利だ。
「どうやってここに入ったの?」
別の質問を投げかけると、今度は女の方がくすっと笑う。
「ここ、上の階への移動手段がエレベーターしかないのでしょう?その為侵入が難しいようにも思われますが、見方を変えればエレベーター使用時のカードが奪われただけで致命的ですわよね。自分たちは強い、恐れられているという油断からこんなお粗末な警備になったのかもしれませんけど…このカードなら入手済みですし、我々の組織の技術でコピーしてここへ来る全員に渡してありますわ」
泡のようなワンポイントのあるそのカードは、アタシ達組織の人間しか持っていないはずの物だった。
カードさえあれば、後は受け付けを突破すれば良いだけ…。
確かに、これではいつ何が起こるか分からないとは思っていた。
カードは一般の店員にも渡っているわけだし、この建物に通う最中にカードを狙う奴に襲われでもしたら終わり。このシステムの改善を提案するべきだろう。
―――と。
目立たないが、女のスカートに向かって何か細い光が向けられていることに気付いた。
数秒後、ボッ、と女のふりふりな黒のスカートに火がついて。
振り返ると、私の後ろの物陰から低姿勢で女にレーザーポインターを向ける仲間の姿があった。危険を察知して駆けつけたのだろう。
あれは強力なレーザーポインターだ。使い方によっては火事だって起こせる。
男が素早く発砲するが、仲間はすぐに物陰に隠れた為に当たらない。
「これ、お気に入りですのに…!」
「どんまいだね。脱いで火消しなよ、ボクはあいつを始末してくるから」
男はそう言ってこちらへ向かって歩いて来て、動かないアタシを降参したものと見なしたのか通り過ぎ、物陰に向かって発砲を続ける。
仲間は銃弾をうまく避けながら物陰から物陰へと移ってゆく。
「指揮官、6階へ行ってください!6階にはまだ大勢のメンバーがいます!彼らを指示して1階まで送らせてください!侵入者はまだ沢山いるはずです!せめて1階に留めなければ!」
走りながら仲間がそう言うのとほぼ同時に、私はスカートの消化に気を取られている女の方へ走り込み、その銀髪を引っ張って姿勢を崩し、エレベーターのボタンを押した。
拳銃を構えようとした女は火の熱さに一瞬顔を顰め、動きが止まった――その隙に顔を横から蹴り飛ばし、倒れ込んだ女の手首を踏み付け、銃を奪う。
「動けば撃つよ」
女に銃口を向けたまますぐにエレベーターの近くへと寄り、エレベーター内に誰かいる可能性も十分考慮しながら、ドアが開くのを待つ。
数秒した後エレベーターはこの階に止まり、幸運にも他の侵入者は誰も使っていなかったようで、すぐに中に入れた。
――まぁ、動かなくても撃つんだけど。
ドアが閉まる前に、引き金を引こうとした――が。
ぞくっと寒気がして顔を上げる。
アタシの仲間を追っていたはずの男が、ボサボサの前髪の隙間から射るような視線をこちらへと向けていた。
「……っ」
銃口はアタシとは反対方向に向けられているはずなのに、それよりもその視線を恐ろしく感じて、動けなくなった。
そして、エレベーターのドアが閉まる。
「…1人逃してしまいましたわ」
「もー、報酬の8割はボクが貰っちゃおうかな」
「多すぎませんこと!?」
―――…これが、アタシの予期していなかった、大乱闘の幕開けだった。
《《<--->》》
-confess-
ラスティ君は臆することなくシャロンに射るような視線を向ける。
「――そろそろ来ると思ってたよ」
その声音はどこかこの状況を愉しんでいるようにも思えた。
組織のリーダー自ら1人でここまで来たのだ。
特にラスティ君にとっては、大嫌いな相手とサシでやり合うことのできる絶好の機会。
「随分余裕そうだねぇ。先に言っとくけど、アリスを人質にしようったって無駄だよ?」
「そうだね。確かにアリスちゃんは死ぬ心配ないし、生死をかけた脅しは通用しない。…でも、アリスちゃんの操については、脅せる状況ではあるよね?」
うへぇ、なんて陽が私の真後ろで嫌そうな声を出す。
ラスティ君はシャロンが言うことを聞かなければ性的な意味で私に手を出すかもしれない、と言っているのだ。
誰が手を出すのかと言えば、私に最も近い位置にいる陽だろう。
汚れ仕事を押し付けられたわけだ。そりゃ嫌よね。
こいつ、なんだかんだで女性に手荒な真似をするのは苦手そうだし。