マイナスの矛盾定義
「…え?」


「勘に過ぎないけれど、それだけじゃないでしょう?」



キャシーは驚いたように顔を上げ、私を凝視した。分かりやすいにも程がある。



「……その通りですわ。悩み自体は変わらないんですけれど、そのことがあって深刻度が変わってくるといいますか…」


「ええ」


「バズ君は…私の腹違いの兄ですのよ」



それは初耳だ。他の人も知らないだろう。そもそもこの組織はあまりそういうことが関係してこない。血が繋がっていようと全く別の相手と交友関係を持ったり、あまり関わりがなく自分の兄妹が任務で死んだことを知らなかったりする人もいる。



「父が日本へ行った際、日本人女性との間にできた子がバズ君です。父はバズ君を他の人間に預けた後帰国し、母との間に私を産んだのですわ」



バズ先生はキャシーの父親の浮気の末に生まれた子ってわけね。



「バズ君は他国のギャングに引き渡され、オモチャにされていたと聞いています。バズ君が幼い頃の記憶がハッキリとしていないのもそのためかと。シャロン様がバズ君を引き取る頃には数々の残虐行為を受けた後だったそうですし…」



今のバズ先生はとてもそんな過去を抱えているようには見えない。日々勉学に勤しみ、仲間とのコミュニケーションも取り、それなりに明るく生活している。それは過去を忘れているからなのか立ち直ったからなのか。


バズ先生も私のように、過去のことを思い出しては恐怖におののくことがあるのだろうか。



いや、話の主旨はそこじゃない。



「バズ君はそのことを知らないの?」


「ええ。私と兄妹であることは伝えていませんわ。隠していたわけではありません。大して重要ではないと思っていましたの」



うーん…。深刻そうに聞こえるけど何が問題なのかよく分からなくなってきた。
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