マイナスの矛盾定義
「最初に会ったのはお互いそれなりの年齢になった後でしょう?兄妹としての実感が湧かないのも当然だわ」
『仮にも好きになった奴が妹だと分かればショック受けると思うゾ』
「ぎゃーーーっ!」
キャシーが面白いくらい飛び跳ねた。どちらかと言うとキャシーに驚いた。
この独特の機械音は…と思いテーブルの裏を見ると、やはりヤモがはり付いていて。
「個室のテーブルの裏にいるとか、ちょっとプライバシー侵害じゃないかしら?」
『ここはカフェの一部なんだから一応公共の場だゾ!居心地が良いからいただけだ、悪いカ!』
「いるならいると言ってくださいまし!」
ヤモはいつもこういう所で盗み聞きを行っているんだろうか。片時も安心できないじゃない。
『まァ、オレは口かたいから安心しろって。そうでなくてももうじき喋らなくなるかならナ』
「死ぬの?」
『縁起でもないこと言うな!ヤモリは意外と長生きなんだゾ!ただの冬眠だ』
「あぁ…」
そういえば、いくら人間の知能を埋め込まれているとはいえ体はただのヤモリ。冬眠が必要だと言って毎年この時期になるとヤモは現れなくなる。…もうそんな季節か。
『さっきの話、告られる前に諦めさせた方がいいんじゃないカ?男はデリケートだからナ!オレ、餌くれる奴が傷付いてる姿見たくねぇよ』
「っそれですわ!諦めさせればいいのです!」
『ダロダロ?名案ダロ?』
いや、それはちょっと違うんじゃ…?
疑問を口にしようとしたけれど、キャシーは随分乗り気なようで、先程とは違いスッキリしたような笑顔を見せてくる。
「そうと決まればあとは作戦を練るだけですわ!何だか良い考えが思い付きそうです。部屋に戻って早速アイデアを出しまくりますわ!お二人ともありがとう。アリスの分は私が払っておきますから、ゆっくりしていてくださいな」
飲みかけのコーヒーを置いて、張り切った様子で部屋を出て行くキャシー。
私は話を聞いただけだけど、どうやら奢ってくれるみたいだ。
誘っておいて置いていくって酷いわね。
まぁ、このカフェに初めて来るきっかけになったし良かったということにしとこうかしら。
残り少ない珈琲を口に流し込んでいると、ヤモが話し掛けてきた。そういえば、ヤモと2人きりになることはあまりない。
『アリス、冬眠に入る前に言いたいことがあるんだ』
改まってどうしたというのか。起きた時用の餌を用意しとけとか言わないわよね?その労働分のお金を払ってくれるならいいけど。
『何か、嫌な予感がするんだよナ』
「嫌な予感?」
『…誰かが死にそうな予感。多分、アリスに関係する奴だと思う』
「何よそれ?占いにでもはまってるの?」
『爬虫類の第六感ってやつだゾ』
「そんな言葉聞いたことないのだけど……」
何を言い出すのかと思ったら。
『……でも、マジで気を付けてくれよナ。起きた時、アリスが泣いてたらオレは悲しいゾ』
飲み干した珈琲のカップをテーブルに置き、ヤモの方を見ると、つぶらな瞳がこちらを見ていた。よく分からないけど…心配してくれてるのかしら。
「大丈夫よ。貴方が起きるまでには、目的を果たしてみせるから」
私としても、普通の人間になって20歳の誕生日を迎えられるようにしたいのだ。
―――
――――――
話した後、ヤモは瞳に不安の色を宿したままどこかへ消えてしまった。
クリミナルズのような組織の任務は、大抵危険と隣り合わせだ。そうでなくとも犯罪者の集まりなのだから、いつどんなことに巻き込まれて死ぬか分からない。
それを考えると今更って感じだけど、予言チックに誰かが死にそうと言われると少し怖くなるわね。
特にヤモは存在自体が不思議な生物だし、動物って地震が起きる前に地震を感じ取るとかいうし…。
私に関係する人、か。今後の私に関係することといえば、マーメイドプランのことだ。
現段階では、ジャックと協力して如月の居場所を見つけることを目標としている。
マーメイドプランの中心人物は如月だけじゃなく私の父もそうなのだが、現在の外見的特徴が分かっている分、如月の方が見つけやすいと考えた。
とっ捕まえて脅して、まずは解毒剤を出してもらうのだ。
その後は…研究所を片っ端から潰していけばいい。研究を支援する団体もどうにかして…と、やることは山積みだ。
でも、その過程で誰かが死ぬとしたら?国のやることに手を出すのだから、消される可能性もないとは言い切れない。
いや…考えすぎか。単純にヤモが嫌な夢見ただけかもしれないし。
「今日も何も出てこなかったよ」
カフェを出てシャロンの部屋に向かっていると、廊下でジャックが私を待っていた。
外出禁止の私は動けないので、代わりに研究に関する情報収集はジャックに任せている。
あんな目に合ったのだから、この程度のタダ働きくらいしてもらって当然だ。
「そう。まぁ、見つからなかったのなら仕方ないわね。今後も調査を続けてちょうだい」
「……ちょっと待って。考えてみれば妙なんだ。昔調べた時は案外簡単に繋がりを持てたのに、こうも見つからないとなると、まるで誰かに…」
私を引き止めたジャックは何かを言おうとして言葉を詰まらせたが、数秒して口を開く。
「…あのさ、アリス」
もし予定の時刻に間に合わなければシャロンが不機嫌になるから、ジャックとの会話にあまり時間は取れない。
用件なら早く言ってほしいと思いながら見上げると、よく分からない質問をされた。
「研究のことを調べる時、行き先とか方針とか、シャロン君に何か話したことある?」
「ほとんど伝えてるわよ。私はわざわざ言う必要ないんじゃないかって思うけど、シャロンは把握したがりだから。最近は貴方に不信感を抱いてるみたいで貴方の行動についても聞いてくるわね。不信感を持つのはもっともだと思うわ」
おっと…棘のある言い方をしてしまった。
しかしジャックは気にする様子もなく、何か別のことを考えているようだった。
「…シャロン君に隠し事ってできない?」
「え?」
「試しに1度だけでも。研究についてのことは俺とアリスの秘密にしたいんだけど」
急になんだというのかしら。
一度私を罠にはめた男と秘密を共有したいかと言われれば、答えはノーだ。
「無理よ。聞かれたら答えるわ」
それに、隠し事なんてシャロンが許してくれるはずもないから、本気で隠そうと思えば嘘を吐かなければならなくなる。それは避けたい。
「仕方ないね。じゃあ、俺はしばらく個人的に行動するよ。フォックス君も研究の調査には付き合ってくれるみたいだし、彼と協力しよう。それでいいかな?」
つまり、私を蚊帳の外に置くってわけ?
わざと突き放すような言い方をして私を挑発しているようにも聞こえる。
「…あぁ、そう。好きにすれば」
ジャックの協力を得られないのは結構な痛手だが、だからといってここで挑発には乗りたくない。
『仮にも好きになった奴が妹だと分かればショック受けると思うゾ』
「ぎゃーーーっ!」
キャシーが面白いくらい飛び跳ねた。どちらかと言うとキャシーに驚いた。
この独特の機械音は…と思いテーブルの裏を見ると、やはりヤモがはり付いていて。
「個室のテーブルの裏にいるとか、ちょっとプライバシー侵害じゃないかしら?」
『ここはカフェの一部なんだから一応公共の場だゾ!居心地が良いからいただけだ、悪いカ!』
「いるならいると言ってくださいまし!」
ヤモはいつもこういう所で盗み聞きを行っているんだろうか。片時も安心できないじゃない。
『まァ、オレは口かたいから安心しろって。そうでなくてももうじき喋らなくなるかならナ』
「死ぬの?」
『縁起でもないこと言うな!ヤモリは意外と長生きなんだゾ!ただの冬眠だ』
「あぁ…」
そういえば、いくら人間の知能を埋め込まれているとはいえ体はただのヤモリ。冬眠が必要だと言って毎年この時期になるとヤモは現れなくなる。…もうそんな季節か。
『さっきの話、告られる前に諦めさせた方がいいんじゃないカ?男はデリケートだからナ!オレ、餌くれる奴が傷付いてる姿見たくねぇよ』
「っそれですわ!諦めさせればいいのです!」
『ダロダロ?名案ダロ?』
いや、それはちょっと違うんじゃ…?
疑問を口にしようとしたけれど、キャシーは随分乗り気なようで、先程とは違いスッキリしたような笑顔を見せてくる。
「そうと決まればあとは作戦を練るだけですわ!何だか良い考えが思い付きそうです。部屋に戻って早速アイデアを出しまくりますわ!お二人ともありがとう。アリスの分は私が払っておきますから、ゆっくりしていてくださいな」
飲みかけのコーヒーを置いて、張り切った様子で部屋を出て行くキャシー。
私は話を聞いただけだけど、どうやら奢ってくれるみたいだ。
誘っておいて置いていくって酷いわね。
まぁ、このカフェに初めて来るきっかけになったし良かったということにしとこうかしら。
残り少ない珈琲を口に流し込んでいると、ヤモが話し掛けてきた。そういえば、ヤモと2人きりになることはあまりない。
『アリス、冬眠に入る前に言いたいことがあるんだ』
改まってどうしたというのか。起きた時用の餌を用意しとけとか言わないわよね?その労働分のお金を払ってくれるならいいけど。
『何か、嫌な予感がするんだよナ』
「嫌な予感?」
『…誰かが死にそうな予感。多分、アリスに関係する奴だと思う』
「何よそれ?占いにでもはまってるの?」
『爬虫類の第六感ってやつだゾ』
「そんな言葉聞いたことないのだけど……」
何を言い出すのかと思ったら。
『……でも、マジで気を付けてくれよナ。起きた時、アリスが泣いてたらオレは悲しいゾ』
飲み干した珈琲のカップをテーブルに置き、ヤモの方を見ると、つぶらな瞳がこちらを見ていた。よく分からないけど…心配してくれてるのかしら。
「大丈夫よ。貴方が起きるまでには、目的を果たしてみせるから」
私としても、普通の人間になって20歳の誕生日を迎えられるようにしたいのだ。
―――
――――――
話した後、ヤモは瞳に不安の色を宿したままどこかへ消えてしまった。
クリミナルズのような組織の任務は、大抵危険と隣り合わせだ。そうでなくとも犯罪者の集まりなのだから、いつどんなことに巻き込まれて死ぬか分からない。
それを考えると今更って感じだけど、予言チックに誰かが死にそうと言われると少し怖くなるわね。
特にヤモは存在自体が不思議な生物だし、動物って地震が起きる前に地震を感じ取るとかいうし…。
私に関係する人、か。今後の私に関係することといえば、マーメイドプランのことだ。
現段階では、ジャックと協力して如月の居場所を見つけることを目標としている。
マーメイドプランの中心人物は如月だけじゃなく私の父もそうなのだが、現在の外見的特徴が分かっている分、如月の方が見つけやすいと考えた。
とっ捕まえて脅して、まずは解毒剤を出してもらうのだ。
その後は…研究所を片っ端から潰していけばいい。研究を支援する団体もどうにかして…と、やることは山積みだ。
でも、その過程で誰かが死ぬとしたら?国のやることに手を出すのだから、消される可能性もないとは言い切れない。
いや…考えすぎか。単純にヤモが嫌な夢見ただけかもしれないし。
「今日も何も出てこなかったよ」
カフェを出てシャロンの部屋に向かっていると、廊下でジャックが私を待っていた。
外出禁止の私は動けないので、代わりに研究に関する情報収集はジャックに任せている。
あんな目に合ったのだから、この程度のタダ働きくらいしてもらって当然だ。
「そう。まぁ、見つからなかったのなら仕方ないわね。今後も調査を続けてちょうだい」
「……ちょっと待って。考えてみれば妙なんだ。昔調べた時は案外簡単に繋がりを持てたのに、こうも見つからないとなると、まるで誰かに…」
私を引き止めたジャックは何かを言おうとして言葉を詰まらせたが、数秒して口を開く。
「…あのさ、アリス」
もし予定の時刻に間に合わなければシャロンが不機嫌になるから、ジャックとの会話にあまり時間は取れない。
用件なら早く言ってほしいと思いながら見上げると、よく分からない質問をされた。
「研究のことを調べる時、行き先とか方針とか、シャロン君に何か話したことある?」
「ほとんど伝えてるわよ。私はわざわざ言う必要ないんじゃないかって思うけど、シャロンは把握したがりだから。最近は貴方に不信感を抱いてるみたいで貴方の行動についても聞いてくるわね。不信感を持つのはもっともだと思うわ」
おっと…棘のある言い方をしてしまった。
しかしジャックは気にする様子もなく、何か別のことを考えているようだった。
「…シャロン君に隠し事ってできない?」
「え?」
「試しに1度だけでも。研究についてのことは俺とアリスの秘密にしたいんだけど」
急になんだというのかしら。
一度私を罠にはめた男と秘密を共有したいかと言われれば、答えはノーだ。
「無理よ。聞かれたら答えるわ」
それに、隠し事なんてシャロンが許してくれるはずもないから、本気で隠そうと思えば嘘を吐かなければならなくなる。それは避けたい。
「仕方ないね。じゃあ、俺はしばらく個人的に行動するよ。フォックス君も研究の調査には付き合ってくれるみたいだし、彼と協力しよう。それでいいかな?」
つまり、私を蚊帳の外に置くってわけ?
わざと突き放すような言い方をして私を挑発しているようにも聞こえる。
「…あぁ、そう。好きにすれば」
ジャックの協力を得られないのは結構な痛手だが、だからといってここで挑発には乗りたくない。