「家族が欲しい」とは言ったけれど
 故に、ほんの一瞬だけ戸惑った様子だったが、
「泣きたいだけ泣いたらいいよ。江梨子はひとりじゃない……俺が居るから」
 ぎこちなく私のことを抱きしめたまま、そう言ってくれた。
 家が向かいということもあり、それまでもずっと仲は良かったが、この時、ぐっと絆が深まった気がする。
 それからもずっと、ある意味、私の行動に目を光らせていた尚は、私が友達から離れてひとりになった時など、大抵はすぐ近くで私を見ていた。
 女子トイレから出てきた時にも、わざとらしく廊下で口笛を吹きながら私を見張っていたのには、つい吹き出してしまい、
「そんなに心配しなくても、私は死んだりなんかしないよ」
「やっと笑ってくれた」
「え?」
「気付かなかった?全く笑わなくなったことも、今、あの日以来、初めて笑顔を見せてくれたことも」
 確かに、そう言われるまで全く気付かなかった。
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