「家族が欲しい」とは言ったけれど
 やっと、私が笑顔を取り戻した頃、
「誰にも話してないんだけどさ……」
 人知れず、ミステリ小説の新人賞に応募していた尚に、実は大賞を受賞したと告げられた。
 昔から、私たちの共通の趣味は読書だったが、小説を書いていたとは初耳だった上に、まさか受賞するほどの才能があったとは知らなかった。
 普通の高校生と変わらぬ暮らしを送りたいからと、プロフィールは伏せたまま作家デビューし、私にも箝口令が敷かれることに。
「センセ、サインしてよ」
 そう言うと、満更でもない顔で“キル・ミー・ベイビー・ワン・モア・タイム”という、なかなかふざけたタイトルのデビュー作の初版本にサインをくれた。
 尚の望み通り、私たちは、ごく普通の高校生らしい学校生活を共に過ごした。
 そして、合わせたわけでもないのに、同じ大学の違う学部に進学。
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