シノミヤ楽器店のひととき
異国のヴァイオリン
店員さんは、おしゃれなティーカップに紅茶をいれて、持ってきてくれた。
「自己紹介がまだでしたね。僕はこの店の店主の孫で、篠宮奏音といいます。お嬢さんは?」
「あっえっと…隣町に住んでいる、高校三年生の小野上優波です。この店には、そこら辺を散歩してたときにたまたま見つけて、ちょっと気になったので…」
「そうだったんだ。うちはなかなか若い子が来ることないから珍しくて。いらっしゃるお客様はほとんど高齢の常連さんなんだ。うちをみつけてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそヴァイオリンを触らせてもらえてうれしかったです。ありがとうございます」
奏音さんはすごく朗らかな空気をまとっているみたいで、人見知りの私でも楽しくおしゃべりできるから不思議だ。
「このヴァイオリンはね、何十年も前に大活躍していた、有名なヴァイオリニストが使っていたものなんだ」
「え⁉そんな貴重なものを、私が触って大丈夫だったんですか…?」
「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。それに、あのヴァイオリンも久しぶりに誰かに弾いてもらえて嬉しかったんじゃないかな。まあ、僕は昔から結構アレで遊んでるんだけどね。弦破壊したこともあるし」
「貴重なヴァイオリンを、そんな乱雑に…?」
「まあまあ、あんまり気にしないで。その後めちゃくちゃおじいちゃんに怒られたのは痛かったけど」
奏音さんは見かけによらず、昔は結構やんちゃだったみたいだ。
「おじいちゃんは昔、ヴァイオリンを作ったり、いろんな楽器を修理したりするための修行でヨーロッパに行っててね、そこでそのヴァイオリニストと仲良くなったらしいんだ。それで、一人前の楽器師になって、そのヴァイオリニストの娘と結婚して、日本に戻ってきたんだ」
「奏音さんのおじいちゃん、すごい人だったんですね」
「うん。僕もおじいちゃんのことすごく尊敬してるんだ。頑固で怒ると怖いけどね。そういうわけで、僕のお父さんはハーフ、僕はクオーターなんだ」
「なるほど…」
奏音さんが他の人に比べて全体的に少し色素が薄く見えるのは、クオーターだからだったんだ。
「じゃあ、その髪の色も、地毛なんですか?」
「もちろん。お父さんはもっと金髪っぽいかんじだけど、僕はこれくらいの落ち着いた茶髪でよかったよ。お父さんはそのせいで小さい頃いじめられてたみたいだし。ガイジンって。僕はそんなことなかったけどね」
「お父さんは、今何をされてらっしゃるんですか?」
「世界中でヴァイオリンを演奏しまくってるんじゃないかなー、お母さんと一緒に。よくわかんないけど」
「あんまり会ってないみたいですね…?」
「うん。会うのは何年かに一回だね。だから僕はがっつりおじいちゃんっ子で育った。名前もおじいちゃんがつけたしね。名前が奏でる音だし、本当は音楽家になってほしかったのかもしれないけど、僕のあこがれはおじいちゃんみたいな楽器師だから」
「おじいちゃん、大好きなんですね。ところで、そのおじいちゃんは今どこに?」
「ああ、毎週水曜日は通院の日だから僕が店番。木曜が店休日で、その他は大体二人で店にいるかな。そうだ、レッスンの日はいつにしようか」
「じゃあ、毎週水曜日に、伺ってもいいですか?」
何となく、奏音さんのおじいちゃんにレッスンを見られるのは気まずい気がして、私はそう答えた。
「うん、いいよ。お待ちしてます」
「ありがとうございます!あ、そろそろ日も暮れてきたので、おいとましますね」
「ほんとだ、もうこんな時間。駅まで送るよ」
「いえ、そこまでしてもらうわけには…」
「だいぶ暗くなってきたし、遠慮しないで送らせて。もう店も閉める時間だから」
「わかりました。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます…」
奏音さんはすごく優しい人で、一緒にいて居心地が良い。しばらく談笑しながら駅に向かって歩いていると、あっという間に駅に着いた。
「すぐ電車来るみたいなので、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
「うん、こちらこそすごく楽しかった。また来週、楽しみにしてるね」
「はい!私も楽しみです!」
「ふふ、じゃあまたね、気を付けて」
しばらく電車に揺られて、私は家についた。
「すごく楽しかったなあ…」
小さく呟く。あ、連絡先聞いておけばよかったな。今度聞いてみよう。今から来週の水曜日が、待ち遠しくて仕方なかった。
「自己紹介がまだでしたね。僕はこの店の店主の孫で、篠宮奏音といいます。お嬢さんは?」
「あっえっと…隣町に住んでいる、高校三年生の小野上優波です。この店には、そこら辺を散歩してたときにたまたま見つけて、ちょっと気になったので…」
「そうだったんだ。うちはなかなか若い子が来ることないから珍しくて。いらっしゃるお客様はほとんど高齢の常連さんなんだ。うちをみつけてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそヴァイオリンを触らせてもらえてうれしかったです。ありがとうございます」
奏音さんはすごく朗らかな空気をまとっているみたいで、人見知りの私でも楽しくおしゃべりできるから不思議だ。
「このヴァイオリンはね、何十年も前に大活躍していた、有名なヴァイオリニストが使っていたものなんだ」
「え⁉そんな貴重なものを、私が触って大丈夫だったんですか…?」
「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。それに、あのヴァイオリンも久しぶりに誰かに弾いてもらえて嬉しかったんじゃないかな。まあ、僕は昔から結構アレで遊んでるんだけどね。弦破壊したこともあるし」
「貴重なヴァイオリンを、そんな乱雑に…?」
「まあまあ、あんまり気にしないで。その後めちゃくちゃおじいちゃんに怒られたのは痛かったけど」
奏音さんは見かけによらず、昔は結構やんちゃだったみたいだ。
「おじいちゃんは昔、ヴァイオリンを作ったり、いろんな楽器を修理したりするための修行でヨーロッパに行っててね、そこでそのヴァイオリニストと仲良くなったらしいんだ。それで、一人前の楽器師になって、そのヴァイオリニストの娘と結婚して、日本に戻ってきたんだ」
「奏音さんのおじいちゃん、すごい人だったんですね」
「うん。僕もおじいちゃんのことすごく尊敬してるんだ。頑固で怒ると怖いけどね。そういうわけで、僕のお父さんはハーフ、僕はクオーターなんだ」
「なるほど…」
奏音さんが他の人に比べて全体的に少し色素が薄く見えるのは、クオーターだからだったんだ。
「じゃあ、その髪の色も、地毛なんですか?」
「もちろん。お父さんはもっと金髪っぽいかんじだけど、僕はこれくらいの落ち着いた茶髪でよかったよ。お父さんはそのせいで小さい頃いじめられてたみたいだし。ガイジンって。僕はそんなことなかったけどね」
「お父さんは、今何をされてらっしゃるんですか?」
「世界中でヴァイオリンを演奏しまくってるんじゃないかなー、お母さんと一緒に。よくわかんないけど」
「あんまり会ってないみたいですね…?」
「うん。会うのは何年かに一回だね。だから僕はがっつりおじいちゃんっ子で育った。名前もおじいちゃんがつけたしね。名前が奏でる音だし、本当は音楽家になってほしかったのかもしれないけど、僕のあこがれはおじいちゃんみたいな楽器師だから」
「おじいちゃん、大好きなんですね。ところで、そのおじいちゃんは今どこに?」
「ああ、毎週水曜日は通院の日だから僕が店番。木曜が店休日で、その他は大体二人で店にいるかな。そうだ、レッスンの日はいつにしようか」
「じゃあ、毎週水曜日に、伺ってもいいですか?」
何となく、奏音さんのおじいちゃんにレッスンを見られるのは気まずい気がして、私はそう答えた。
「うん、いいよ。お待ちしてます」
「ありがとうございます!あ、そろそろ日も暮れてきたので、おいとましますね」
「ほんとだ、もうこんな時間。駅まで送るよ」
「いえ、そこまでしてもらうわけには…」
「だいぶ暗くなってきたし、遠慮しないで送らせて。もう店も閉める時間だから」
「わかりました。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます…」
奏音さんはすごく優しい人で、一緒にいて居心地が良い。しばらく談笑しながら駅に向かって歩いていると、あっという間に駅に着いた。
「すぐ電車来るみたいなので、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
「うん、こちらこそすごく楽しかった。また来週、楽しみにしてるね」
「はい!私も楽しみです!」
「ふふ、じゃあまたね、気を付けて」
しばらく電車に揺られて、私は家についた。
「すごく楽しかったなあ…」
小さく呟く。あ、連絡先聞いておけばよかったな。今度聞いてみよう。今から来週の水曜日が、待ち遠しくて仕方なかった。