シノミヤ楽器店のひととき
初めてのレッスン
今日は待ちに待った水曜日。朝からそわそわして、友達からも変な目を向けられてしまったけど、なんとか一日学校を乗り切った。
駅の改札を出て、そのまま商店街を歩く。少し歩いたところで脇道にそれて、やっと「シノミヤ楽器店」の看板が見えてきた。
「こんにちは…」
店のドアを開けると、ピアノの美しい旋律が耳を撫でた。
しかし、ピアノの音はそこで止まって、奏音さんがこちらを振り向く。
「あ、優波ちゃん、こんにちは。学校お疲れ様。待ってたよ」
ふわっとした笑顔で奏音さんが迎えてくれた。
「奏音さん、ピアノも弾けるんですね…ほんのちょっとしか聞こえなかったけど、すごく上手でびっくりしました」
「ふふ、ありがとう。ヴァイオリンとピアノ以外にも、中高で吹奏楽やってたから、サックスとフルート、あとはパーカッションをいくつかと、ああ、あと最近は趣味でカリンバもやってるかな」
「すごい、多彩だぁ…」
「まあ、どれも中途半端でプロには程遠いんだけどね。昔から楽器とか音楽が好きだから、出来るだけいろいろやってみようって頑張ってた。高校のときは合唱部も掛け持ちしてたなあ…」
私は部活もしていないし、好きなことだって見つけられない。いろいろなことに全力で取り組める奏音さんが、少しうらやましくなった。
「自分でいろいろ決めて頑張れるってすごいことだと思います。私は進路もろくに決められなくて…」
「進路かー、それは大変だね。でも、焦っても空回りしちゃうなんてことはありがちだから、自分のペースでちょっとずつ、が大事だよ」
「そっか…そう言われるとちょっと気持ち軽くなりました。ありがとうございます」
「いえいえ、僕でよければいつでも相談乗るよ。そうだ、連絡先聞いてもいい?」
「あ、それ私も聞こうと思ってました」
「そっか、よかった。じゃあ、そろそろレッスン始めますか」
「はい!よろしくお願いします!」
初めてのレッスンは、綺麗な音を出すための練習だった。地道な特訓だけど、結構楽しい。私意外と、音楽向いてるのかも?もっと早くヴァイオリンに出会いたかったなあ。
そんなことを考えながら、奏音さんに手取り足取りヴァイオリンを教わっていると、あっという間にレッスンが終わった。
「優波ちゃん、上達が速いね。この調子なら、次には簡単なのを一曲くらい、弾き上げられそう」
「本当ですか⁈楽しみです」
「そうだね。じゃあ、お茶にしようか」
奏音さんは慣れた手つきで、紅茶を二人分、ティーカップに注いでいく。
「この前から思ってたんですけど、この紅茶、すごく香りが良くて美味しいですね」
「でしょ?この紅茶、おじいちゃんのこだわりなんだ。スリランカ産の茶葉を使っててね」
「へぇ、スリランカかぁ…」
「うん。昔おじいちゃんにおつかいを頼まれたときにね、いつものオレンジ色のパッケージのこれを買ってくるんだよって念を押されて近所のお茶屋さんに買いに行ったんだ。でも、すごく似たパッケージのチャイティーを間違えて買ってきちゃって、気づかずにそれを飲んだおじいちゃんがお茶を吹き出しちゃったんだよね。香りで気づけたはずなのにたまたま鼻炎だったみたいで。すごくおもしろくて笑っちゃったんだけど、おじいちゃん頭から湯気出そうなくらいカンカンに怒ってて。やばい、と思ってすぐ店から飛び出してにげちゃった。まあ、すぐに捕まってお説教食らったんだけど」
「幼い頃の奏音さん、本当にやんちゃですね。ちょっと会ってみたかった」
「えー、どこにでもいるただのがきんちょだったよー」
今はこんなに大人っぽい奏音さんががきんちょかぁ、となおさら見たくなってしまった。
「そういえば、今は何歳なんですか?」
「今は20歳だよ。来月で21歳になるけど」
「そうなんですね!誕生日いつですか?」
「6月10日だよ」
近くにかかっていたカレンダーを見てみる。ちょうど水曜日だ。
「じゃあ、お祝いにケーキ持ってきますね」
「ほんと?甘いもの大好物だから嬉しいよ。楽しみにしてる」
「優波ちゃんの誕生日は?」
「私は9月13日で18歳です」
「そっか、成人だね」
「はい、全然成人する実感はないですけど…」
ふと時計を見てみると、すでに6時を過ぎていることに気が付いた。
「もう日が暮れるので、そろそろ帰りますね」
「本当だ、もうこんな時間。優波ちゃんといると、時間が経つのが速いなぁ。すぐ店閉めるから、ちょっと待っててね。送るから」
「わざわざありがとうございます。外に出ますね」
奏音さんは店の鍵を閉めると、この前と同じように、私を駅まで送ってくれた。
次のレッスンは、曲が弾けるのかぁ、と思うと、またすごく楽しみになった。
電車を降りた後も、私は軽い足取りのまま、家路についた。
駅の改札を出て、そのまま商店街を歩く。少し歩いたところで脇道にそれて、やっと「シノミヤ楽器店」の看板が見えてきた。
「こんにちは…」
店のドアを開けると、ピアノの美しい旋律が耳を撫でた。
しかし、ピアノの音はそこで止まって、奏音さんがこちらを振り向く。
「あ、優波ちゃん、こんにちは。学校お疲れ様。待ってたよ」
ふわっとした笑顔で奏音さんが迎えてくれた。
「奏音さん、ピアノも弾けるんですね…ほんのちょっとしか聞こえなかったけど、すごく上手でびっくりしました」
「ふふ、ありがとう。ヴァイオリンとピアノ以外にも、中高で吹奏楽やってたから、サックスとフルート、あとはパーカッションをいくつかと、ああ、あと最近は趣味でカリンバもやってるかな」
「すごい、多彩だぁ…」
「まあ、どれも中途半端でプロには程遠いんだけどね。昔から楽器とか音楽が好きだから、出来るだけいろいろやってみようって頑張ってた。高校のときは合唱部も掛け持ちしてたなあ…」
私は部活もしていないし、好きなことだって見つけられない。いろいろなことに全力で取り組める奏音さんが、少しうらやましくなった。
「自分でいろいろ決めて頑張れるってすごいことだと思います。私は進路もろくに決められなくて…」
「進路かー、それは大変だね。でも、焦っても空回りしちゃうなんてことはありがちだから、自分のペースでちょっとずつ、が大事だよ」
「そっか…そう言われるとちょっと気持ち軽くなりました。ありがとうございます」
「いえいえ、僕でよければいつでも相談乗るよ。そうだ、連絡先聞いてもいい?」
「あ、それ私も聞こうと思ってました」
「そっか、よかった。じゃあ、そろそろレッスン始めますか」
「はい!よろしくお願いします!」
初めてのレッスンは、綺麗な音を出すための練習だった。地道な特訓だけど、結構楽しい。私意外と、音楽向いてるのかも?もっと早くヴァイオリンに出会いたかったなあ。
そんなことを考えながら、奏音さんに手取り足取りヴァイオリンを教わっていると、あっという間にレッスンが終わった。
「優波ちゃん、上達が速いね。この調子なら、次には簡単なのを一曲くらい、弾き上げられそう」
「本当ですか⁈楽しみです」
「そうだね。じゃあ、お茶にしようか」
奏音さんは慣れた手つきで、紅茶を二人分、ティーカップに注いでいく。
「この前から思ってたんですけど、この紅茶、すごく香りが良くて美味しいですね」
「でしょ?この紅茶、おじいちゃんのこだわりなんだ。スリランカ産の茶葉を使っててね」
「へぇ、スリランカかぁ…」
「うん。昔おじいちゃんにおつかいを頼まれたときにね、いつものオレンジ色のパッケージのこれを買ってくるんだよって念を押されて近所のお茶屋さんに買いに行ったんだ。でも、すごく似たパッケージのチャイティーを間違えて買ってきちゃって、気づかずにそれを飲んだおじいちゃんがお茶を吹き出しちゃったんだよね。香りで気づけたはずなのにたまたま鼻炎だったみたいで。すごくおもしろくて笑っちゃったんだけど、おじいちゃん頭から湯気出そうなくらいカンカンに怒ってて。やばい、と思ってすぐ店から飛び出してにげちゃった。まあ、すぐに捕まってお説教食らったんだけど」
「幼い頃の奏音さん、本当にやんちゃですね。ちょっと会ってみたかった」
「えー、どこにでもいるただのがきんちょだったよー」
今はこんなに大人っぽい奏音さんががきんちょかぁ、となおさら見たくなってしまった。
「そういえば、今は何歳なんですか?」
「今は20歳だよ。来月で21歳になるけど」
「そうなんですね!誕生日いつですか?」
「6月10日だよ」
近くにかかっていたカレンダーを見てみる。ちょうど水曜日だ。
「じゃあ、お祝いにケーキ持ってきますね」
「ほんと?甘いもの大好物だから嬉しいよ。楽しみにしてる」
「優波ちゃんの誕生日は?」
「私は9月13日で18歳です」
「そっか、成人だね」
「はい、全然成人する実感はないですけど…」
ふと時計を見てみると、すでに6時を過ぎていることに気が付いた。
「もう日が暮れるので、そろそろ帰りますね」
「本当だ、もうこんな時間。優波ちゃんといると、時間が経つのが速いなぁ。すぐ店閉めるから、ちょっと待っててね。送るから」
「わざわざありがとうございます。外に出ますね」
奏音さんは店の鍵を閉めると、この前と同じように、私を駅まで送ってくれた。
次のレッスンは、曲が弾けるのかぁ、と思うと、またすごく楽しみになった。
電車を降りた後も、私は軽い足取りのまま、家路についた。