鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます【試し読み】

「ただいま~」

ドアを開けて暗い部屋に電気をつけると、中から同居人がけだるげに出てきた。

「疲れたよ~」

歩いてきた同居の愛猫のタマを抱き上げる。

迷惑そうな表情をしているけれど、今だけ我慢してほしい。タマの首のあたりに顔をつけて深呼吸を繰り返してタマの成分を補充する。愛猫からしか接種できない栄養分があるのだ。

会社ではずっと気を張っているぶん、家に帰ると思い切り自分が出てしまう。とくにタマの前では顕著だ。

きっと会社の人がこんな私を見たら驚くに違いないが、この解放感はなにものにも代えがたい。自分ひとりの空間なのだ、誰にも咎められないだろう。

「はぁ、疲れた。疲れた。タマは?」

もちろん返事はないけれどそれでいい。嫌がりつつも逃げ出さないのは彼女の優しさだ。

真っ白い柔らかい体に、赤い首輪。某国民的アニメの飼い猫にそっくりなところから、タマと名付けた。

一緒に暮らし始めたのは三年前。

どこからともなくやってきてマンションに居座った。飼い主を探したり、警察に届け出たりしたけれど見つからずに、結局私と同居することになったのだ。

マンションが動物可の物件で本当によかった。

小さいころから猫と一緒に暮らすのが夢だった。家族に願い出ることができず我慢してきたことが、大人になり実現できるようになった。私は今、自由を満喫している。

「はぁ、幸せ。ありがとう。タマ」

床におろすとしっぽをひとふりして、自分の寝床に帰って行った。

タマにパワーをもらった勢いでそのまま家事を済ませてしまおう。
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