鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます【試し読み】
私が幼稚園児だったとき、体の弱かった母が他界した。周囲からはがんばったほうだと言われていたようだが、私からすれば世界でたったひとりの〝お母さん〟がいなくなってしまったことがショックだった。
母の温かい手を必要とする歳だった私は、その三年後小学校三年生のときに父が再婚すると聞いて喜んだ。新しいお母さんができるのだと。
新しい母と三つ年上のはじめての兄。
新生活に胸を膨らませていた私だったが、半年でその生活が自分の求めていないものだと理解した。
そのきっかけになった出来事を今でも鮮明に覚えている。
私は小さなころからずば抜けて記憶力がよかった。一度見たものは瞬時に脳内にやきつく。写真で取ったように頭の中で記憶される。
なかなか便利なその能力を披露すれば、誰もが褒めてくれた。それが自分の長所だと思っていた。だから誰でも褒めてくれるはずだと信じていたのだ。
そう思って新しい母の前でも、それを発揮した。
当時小学六年生だった新しい兄は中学受験の真っただ中だった。
毎日塾に通い、休みの日はお弁当を持って朝から晩まで塾で授業を受けたり自習をしたり。自宅でも深夜まで母親と二人三脚で勉強をしていた。
それを私は目の前で見ていた。兄の塾のテキストを見ていたら『お前みたいなガキに解けるはずない』などと言われてむっとした私は、その宿題をさらさらと解いてしまう。
実際に解いたわけではない。実はテキストの解答を事前に見て暗記していただけだ。だから類似の問題が出されたとしても、内容を理解していないであろう私には解けなかっただろう。
『ねぇ、見てお母さんすごいでしょ?』
母はすべて正解のテキストを見て目を見開いて驚いた。
その隣で兄は『うそだろ』と衝撃を受けている。
やった、褒めてもらえる!
そう思ったけれど、次の瞬間頬に破裂音とともに衝撃が走った。
『お、お母さん?』
その場に倒れ込んだ私は、なぜ手をあげられたのかわからずに茫然とする。