鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます【試し読み】
そういう理由で私は自分のこの能力を決していいものだと思えなかった。
それに成長とともに気が付いた。
学生時代の暗記中心の試験では役に立ったこの能力だが、覚えているだけでは役に立たないということもたくさんある。たとえば料理のレシピは覚えていても、実際に作れないし、楽譜は読めてもピアノは弾けない。
ただ人よりも記憶力がいいというだけ。結局その程度なのだ。
知識があるから期待されることもあった。そしてできないとわかると、がっかりされるのだ。勝手に寄せられる期待も、がっかりされて裏切られたという顔をされるのもつらい。それならばこんな能力は、人に知られない方がずっといい。
だから私は常に身の丈にあった、地に足のついた、現実的な、腰の据わった――そういう堅実な暮らしを心掛けてきた。
今の経理課の仕事では今日みたいに便利なこともある。ちょっと便利くらいがちょうどいいのだ。
バタバタした一日だったせいか、昔の嫌だったことを思い出してしまった。
「さーて。お風呂、お風呂」
私は最後の一口のビールを飲み干すと、そのまま食器をさげてお風呂に向かった。そんな私の足元をタマが「ニャー」と泣きながら寝床に歩いて行った。