鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます【試し読み】
始業開始、三十分後オンラインで社長の挨拶がはじまった。これまでは年始など節目のときは七階のホールに集まって講和を聞いていたが、どうやら時間短縮のために今後じゃそういった場合もオンラインですませるそうだ。
「なんだかさみしいですね。私みたいな古い人間からしたら」
今出川課長がちょっとしょんぼりしながら、画面を見つめている。それに四条さんが諭すように言葉を返す。
「仕方ないですよ、今の時代コスパが大事ですから」
「でもほら、顔を見てだな」
「いや、向こうは課長の顔なんて見てませんよ。だからオンラインでも一緒です」
四条さんが身も蓋もない言い方をして、課長を落胆させている。
そんなふたりを横目に、私はこれから画面に映るであろう御陵社長に集中する。
この半年間、彼に関する様々な情報が私の中に記憶された。それだけ目に触れる機会が多かったということだ。
御陵大翔 三十二歳。
御陵ホールディングスを経営する御陵家の次男。三歳年上の長男の御陵夕翔氏は事業の中核である『御陵電気株式会社』で専務として勤務している。それまで御陵電気で常務として勤務していた大翔氏はたっての希望で今回御陵エレクトロニクスの社長に就任した。
兄弟どちらかに後を継がせるか、まだ決まっていないようで熾烈な争いが繰り広げられており、今回御陵エレクトロニクスがどれだけ大きくなるかが、大翔氏が御陵グループの後継ぎとなれるかどうかのカギを握っているらしい。
まるでドラマのような家督争いだなと思いつつ、柔和な笑みを浮かべる画面の中の人物の話を聞く。
「はぁ、御陵社長ってばものすごく美男ですね。社長の顔を見るたびに寿命が三年伸びそうです」
「それはよかった」
四条さんの大げさな言葉に課長がにこにこと笑う。
「やっぱり、さっきの課長がおっしゃっていたように、対面のほうがいいですね」
「いやあ、四条さん。わかってくれたんだ。うれしいなぁ」
課長の意図と、四条さんの意図はおそらく違うだろう。彼女はイケメンを近くで見たいだけだ。
ふたりのやり取りを後目に社長の話がはじまった。
『みなさん、今どんな気持ちでその場にいますか?』
突然はじまった問いかけに、課長も四条さんも画面に集中する。
『おはようございます、社長に就任しました御陵大翔です』
にっこりと笑うその顔に四条さんが「はぁ、イケメン」と声をもらした。
「四条さん、まじめに」
課長の注意に彼女は「すみません」と肩をすくめながら謝罪をした。