鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます
営業部に向かう廊下でも、通達を見た社員たちが騒がしくしていた。その合間を縫って、営業部のあるフロアに足を踏み入れる。
いつもこの時間は社内にいる人だ。今日はデスクではなく、入口近くで雑談をしていた。
「経理部の鳴滝です。今ちょっとよろしいでしょうか?」
私が声をかけると、該当社員はふりむいた。
「提出された伝票のことですが――」
「なぁ、鳴滝さん。今そんな話している場合じゃないよね。だって会社がなくなるんだよ?」
信じられないとでもいうような顔をされているが、今は業務時間中だ。仕事をするのは正しい。正確には買収されるので消滅するわけではないが、訂正するのは面倒なので、そのまま飲み込む。
「今後の会社がどうなったとしても、経費は正確に計上しなくてはいけません、ですのでこの日の裏書、企業の名前だけでなく相手方代表者のお名前と、人数を正確に教えてください」
彼の提出した書類を見せながら、指摘する。
「え、そんなのすぐにわからないよ」
めんどうだなと顔に書いてある。しかしここで引くわけにはいかない。
「では、来週の月曜までにお願いします。遅れたら今回の経費の振り込みは間に合いませんので」
私が踵を返そうとすると、呼び止められた。
「待ってよ。いや、もうそっちで適当にやっておいてよ。そんな大きな金額じゃないんだし」
「適当? たとえ小さな金額だとしても正確でなければいけませ――」
「あぁ、わかったわかった。すぐに書くから待っていて」
私の言葉を遮った後、胸元から手帳を出すとサラサラと領収書の裏に書きつけながらぼやく。
「本当に、融通がきかないね。だから〝鉄壁〟なんて呼ばれるんだぞ」