鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます【試し読み】
「私は、鉄壁の女ではありません。鳴滝です」

 学生時代も真面目だったが、学級委員を務めたことは一度もない。鋼鉄ってそこまで言われるほどお堅いつもりもない。ルールを守るのは自分を守ることにつながるいわば自己保身のためだ。

 そもそも、そのセリフを面と向かって私に言うなんて失礼すぎる。顔に出すと面倒なので無表情を貫く。あぁ、こういうところが〝鋼鉄〟なのかと妙に納得してしまった。

「わかった、わかった。本当にくそ真面目だなっ!」

 最後は投げやりに領収書を押し付けられた。

 受け取った私は内容を確認する。

「こちらで結構です。では、失礼します」

「はいはい。お疲れさーん。本当に会社の危機だっていうのになんであんな冷静なんだ」

 背中にボヤキを受けながら、経理部に戻る。

 会社の危機って言うけれど、買収だから名前を変えて業務は引き継がれる。

 もちろんそこで、社員の入れ替えはあるだろう。希望退職も募るはずだ。しかしこの会社にしがみつきたいのならば、おしゃべりなどせずにこんな時でも働いていた方が、よっぽど残れる可能性はある。

 イライラしているせいで、いつもよりもヒールの音が響く。

 私の仕事――経理事務は相手の都合を考慮し続けるとまったく仕事が進まない。ある程度の融通は聞かせているつもりだが、社内では私が書類を手にフロアに表れるとみんな一瞬嫌な顔をする。……もうそれも馴れたけれど。

 入社して四年。伝票と数字にまみれている間に二十六歳になった。最初の二年は仕事を覚えるのに必死で、次の一年はどれだけ効率的に社員から期限内に書類を手に入れるかを極めた。

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