鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます【試し読み】

 その結果があの不名誉なあだ名をつけられたのだから、意味が分からない。

 まぁ、でもそれも無理もないか。他の社員と仲良くなろうと思う気が私にないのだから。

 そもそも会社は仕事をするところだ。自分の仕事をきちんとしてその対価としてお給料をもらう。そういう場だ。

 だから四条さんに「おしゃれも楽しいですよ」と言われても、特に必要性を感じない。

 一度も染めたことのない背中の中頃までの髪をひとつに束ねて、制服化しているブラウスにカーディガンと黒のタイトスカート、黒のパンプスを万年愛用している。着替えに迷う時間もなく合理的だ。仕上げに眼鏡をかければお仕事スタイルの完成だ。

 考え抜いて仕上げた、もっとも快適に仕事ができる効率的な服装だ。

 私にとって大切なのは、効率よく仕事をしてその対価をもらうこと。周囲に合わせて余計なことをする時間がもったいない。社員同士仲良くしなくても仕事はできる。いやむしろ変な感情を挟まない方が機能的でよい。

 そんな私を周囲は面倒だとか、融通が利かないだとか、まぁいろいろ思っているだろうけれど仕事をきちんとしている以上、なんと言われてもかまわない。

 それよりも相手に合わせたり、深く付き合うことで疲れたりしたくないのだ。

 経理課の扉を開けて中に入る。

「ただいま戻りました」

「はい、おかえりなさい」

 課長はまだうちわであおぎつつパソコンの画面を眺めている。

 四条さんはなんとなく落ち着かない様子で、工場から送られてきたデータを精査しているようだ。

「あ~もう、数字が合わないっ! 私、クビになりませんか? どう思います、鳴滝さん!」

「さぁ、どうだろうね」

 私は首を傾げた。

「冷たい! いつもどおりだけど、今日は余計に冷たく感じる」

 形のいい眉を下げて、机に突っ伏してしまった。

「はいはい。鳴滝さんが戻ってきたから今後のことについて話をしますよ」

 課長から声がかかって、私も四条さんも顔を課長に向けて話を聞く。

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