鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます【試し読み】
「さてご存じの通りわが社は『御陵ホールディングス』の傘下に入ることになった」
御陵ホールディングスは日本を代表する電子機器メーカーだ。
家電にはじまり通信機器や工場機器、各種システムの提供など小さな子どもから大人まで、なにかしらの形で御陵ホールディングスの商品を使用している。
わが社を買収後、主に自動車関連の半導体の製造販売をメインに行う予定だ。
「……ううう、そんな大企業の子会社だなんて、私みたいな下っ端、絶対首を切られる」
さっきから弱気な四条さんはますます不安になっているようだ。
「そんな悲観的にならないで。給料上がるかも、ラッキーくらいの気持ちでいなさい」
こういうとき、課長が落ち着いているおかげで、気持ちがざわざわしなくてすむ。四条さんも課長の言葉に頷いて、なんとか持ち直しそうだ。
「はい」
四条さんは課長の言葉に納得していないようだが頷いた。いまここで嘆いても仕方がないとわかっているからだ。
「おそらく鳴滝さんはこうなることを予想していたんじゃないのかな?」
「まぁ、なんとなく……」
課長に聞かれて、私はあいまいに濁した。
この一年間ほど、通常業務とは別にたくさんの経理資料を求められることがあった。それに加えて今年は採用数をぐっとしぼっていた。開発部門に数人、経理も人員を増やしてほしいと依頼していたが、却下されている。
財務状況が悪いのは知っていたので、そろそろかなと思っていたその程度だ。
「買収に向けて経理部も忙しくなる。財務の見直しは必須になるだろうし、システムも変更になる予定だ。おそらくだが、私たち三人はそのまま新しい会社に残れることになるだろう」
「やったー!」
さっきまで泣きそうな顔をしていた四条さんが嬉々として快哉を叫んだ。
「はいはい、静かに。今までどんなに忙しくても三人で力を合わせてきてよかったですね」
四条さんはうんうんと頷いている。
ずっと人員不足だと嘆いていたが、人が増えることはなかった。どうにかして乗り越えてきた。その間に個人の能力も嫌でも伸ばさずにいられなかった。
そのおかげで、三人とも次の会社に残れそうだ。
「ほっとしました」
思わず本音がぽろっと口からこぼれた。
「あれ、鳴滝さんでもそう思うの?」
課長が意外そうに言った。