鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます【試し読み】
「はい、このご時世安定した仕事は大切ですから」
心の中を知られてなんとなく気恥ずかしく、眼鏡のブリッジを上にあげながらそっけない返事をする。
「私はとりあえず、転職活動しなくてすんでほっとしました」
四条さんは、心底安堵しているようだ。
私はひとこと忠告する。
「安心しているようだけど、大企業の傘下になるのだから、今までみたいにのんびり仕事をしていられないかもしれないわよ」
「えーそんなぁ」
四条さんはまた机につっぷしてしまった。
しかしすぐに顔だけ上げてこちらを見る。
「鳴滝さん、見捨てないでくださいね」
「もちろん」
笑顔は得意じゃないけれど、にっこり笑ってみせる。基本的に会社の人と仲良くしようと思わないけれど、四条さんと課長は別だ。私のことをちゃんと理解してくれている相手には、私だって好意を持つ。
「鳴滝さーーん」
立ち上がった四条さんが私に抱き着こうとして、課長が止める。
「はいはい、将来安泰だってわかったなら仕事仕事!」
「はぁい。がんばりまぁす」
さっきまで悲壮感漂う顔をしていたのに、今はけろっとしている。
私は彼女のこういう切り替えの上手なところが好きだ。
周囲から真面目でお堅いやら、暗いだとか評価されがちの私と、いわゆるパリピの四条さんだったが、気が合って仲良くしている。
お互いにあまりにも違いすぎるのが逆によかったのかもしれない。
課長も変に口出しせずに温かく見守ってくれるタイプの上司だ。
私にとってこの経理課はすごく居心地のいい職場であるし、仕事内容も気に入っていた。
買収後も続けられるとあってほっとした。
仕事がなくなり収入が途絶えても、私には帰る場所はないから。余計なことを考えそうになったところで、課長の声が遮ってくれて助かった。
「と、いうことで……面倒な仕事なんだけど」
「私無理です!」
四条さんは、すごい速さではっきりきっぱりと断った。
「と言っているので、鳴滝さんお願いできますか?」
「はい……なんでしょうか」
「十五年前の資料が必要になりそうなんです。ただ前のシステムのときなので今のシステムではすべて把握できないんです」
私が入社する前のシステム移行のときに、うまくいかなかったデータらしい。そういったものは紙の書類で確認するほかない。完全に移行しきれていないのが悲しいところだ。
「わかりました。何年度のどの会社のものが必要なのかおっしゃってください」
「メモしようか? 数が結構あるんだけど」
課長がペンを手に取ったけれど、私はそれを止めた。
「いいえ、口頭で結構です」
「いやぁ、さすがだね。えーと……」
課長がデータを読み上げた。
「かしこまりました。一時間後には準備できると思います」
「あいかわらず、君の記憶力はすごいね~いやぁ、ほんと」
課長は腕を組んでゆっくりと頷いている。
「なんの自慢にもなりません。ただの特技ですから」
「またまた、それでずいぶん助かってるから、私自身ね。いつもありがとう」
「いいえ、仕事ですので」
私は軽く頭を下げて、目の前のデータ入力を済ませた後、すぐに魔窟なんて揶揄される過去の資料が詰め込んであるだけの、資料庫に向かった。
心の中を知られてなんとなく気恥ずかしく、眼鏡のブリッジを上にあげながらそっけない返事をする。
「私はとりあえず、転職活動しなくてすんでほっとしました」
四条さんは、心底安堵しているようだ。
私はひとこと忠告する。
「安心しているようだけど、大企業の傘下になるのだから、今までみたいにのんびり仕事をしていられないかもしれないわよ」
「えーそんなぁ」
四条さんはまた机につっぷしてしまった。
しかしすぐに顔だけ上げてこちらを見る。
「鳴滝さん、見捨てないでくださいね」
「もちろん」
笑顔は得意じゃないけれど、にっこり笑ってみせる。基本的に会社の人と仲良くしようと思わないけれど、四条さんと課長は別だ。私のことをちゃんと理解してくれている相手には、私だって好意を持つ。
「鳴滝さーーん」
立ち上がった四条さんが私に抱き着こうとして、課長が止める。
「はいはい、将来安泰だってわかったなら仕事仕事!」
「はぁい。がんばりまぁす」
さっきまで悲壮感漂う顔をしていたのに、今はけろっとしている。
私は彼女のこういう切り替えの上手なところが好きだ。
周囲から真面目でお堅いやら、暗いだとか評価されがちの私と、いわゆるパリピの四条さんだったが、気が合って仲良くしている。
お互いにあまりにも違いすぎるのが逆によかったのかもしれない。
課長も変に口出しせずに温かく見守ってくれるタイプの上司だ。
私にとってこの経理課はすごく居心地のいい職場であるし、仕事内容も気に入っていた。
買収後も続けられるとあってほっとした。
仕事がなくなり収入が途絶えても、私には帰る場所はないから。余計なことを考えそうになったところで、課長の声が遮ってくれて助かった。
「と、いうことで……面倒な仕事なんだけど」
「私無理です!」
四条さんは、すごい速さではっきりきっぱりと断った。
「と言っているので、鳴滝さんお願いできますか?」
「はい……なんでしょうか」
「十五年前の資料が必要になりそうなんです。ただ前のシステムのときなので今のシステムではすべて把握できないんです」
私が入社する前のシステム移行のときに、うまくいかなかったデータらしい。そういったものは紙の書類で確認するほかない。完全に移行しきれていないのが悲しいところだ。
「わかりました。何年度のどの会社のものが必要なのかおっしゃってください」
「メモしようか? 数が結構あるんだけど」
課長がペンを手に取ったけれど、私はそれを止めた。
「いいえ、口頭で結構です」
「いやぁ、さすがだね。えーと……」
課長がデータを読み上げた。
「かしこまりました。一時間後には準備できると思います」
「あいかわらず、君の記憶力はすごいね~いやぁ、ほんと」
課長は腕を組んでゆっくりと頷いている。
「なんの自慢にもなりません。ただの特技ですから」
「またまた、それでずいぶん助かってるから、私自身ね。いつもありがとう」
「いいえ、仕事ですので」
私は軽く頭を下げて、目の前のデータ入力を済ませた後、すぐに魔窟なんて揶揄される過去の資料が詰め込んであるだけの、資料庫に向かった。