鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます【試し読み】
本当にここ……一度ちゃんと片付けしないと。
私は以前足を踏み入れた時よりも、ひどい状況になっている倉庫を見て唖然とした。
日々の仕事に追われると、こういうところがおろそかになる。これも人手不足の影響だ。
乱雑に積み上げられた段ボール。開いている場所に適当に置かれたものを誰が探すことができようか。私以外は。
サーッと資料を目で追っていく。前回ここに来たのは二カ月前くらいだ。そこから段ボールがいくつか増え、場所が動かされているものも何個かある。
袖口で口元を覆いながらほこりっぽい室内を進む。十五年前の資料であの会社なら、ここ。
あった。特別苦労することなく部屋の片隅の段ボールの中の奥にある資料を見つける。
この煩雑な倉庫の中身を把握しているのが、私だけって大丈夫なのかな。心配になるがでしゃばるつもりはない。
出る杭は打たれる。手を抜くわけではないけれど、いいことも悪いこともあまり目立ちたくない。
二十六年生きてきて、見て見ぬ振りは上手くなった。
手に分厚いバインダーを抱えて、資料庫を出る。
廊下を歩いていても自社の買収の話でもちきりだ。浮足立っている社内を歩いていると、不安に思っている社員も多そうだ。
なにもかも今までと同じというわけにはいかなくても、あまり変化のない日常が続けばいいなと思う。それ以上はなにも求めないので。
まっすぐに経理課を目指し歩いていると「君」と声をかけられた。
その顔に見覚えがある。
一礼してから口を開いた。
「御陵常務でいらっしゃいますね」
「お、私のことを知っているなんてすごいね」
一度会社を訪ねてきた際に、見かけたことがある。あれは一年以上前だったか、そのころから買収について協議が重ねられていたに違いない。
一度見れば私でなくても忘れないだろう。それくらい印象的な男性だ。
御陵大翔――三十二歳。
この若さで日本を代表する大企業御陵ホールディングスの常務を務めている。いわゆる生まれながらのセレブだ。
生まれもさることながら、その恵まれた容姿も周囲に注目されている。身長は百八十センチを超え、すらりと長い手足は日本人離れしている。そしてなによりも目を奪うのはその整った顔だ。
整った男らしい眉に、形のいい二重の目、瞳は少し色素が薄く綺麗に透き通っている目じりにわずかにある皺が周囲に柔和な印象を与える。スーッと通った鼻筋に、口角がわずかに上がった形の良い唇。それらのすばらしいパーツが美しく並んでいる。
神様がそうとう頑張って、彼を生み出したのだろう。まさに最高傑作と言っても過言ではない。