鉄壁の女は清く正しく働きたい!なのに、敏腕社長が仕事中も溺愛してきます【試し読み】
育ちの良さも相まって、洗練されたふるまいから醸し出される雰囲気にみんなが注目してしまうのも無理はないことだ。

「このような場所で、いかがなさいましたか?」

「実は社長と面談の予定だったんだけど、秘書とはぐれてしまって」

にっこり笑っているけれど、この綺麗な顔に油断してはいけない。頭の中でもうひとりの私が警鐘を鳴らしている。

そもそも御陵ホールディングスの常務秘書がボスを迷子にさせるなんてことありえないだろう。おそらく常務本人が意図的に迷子にならないとこんな状況にはなりえない。

 いったいどういうつもりなのだろうか。それを知っても仕方がないのだけれど。

とにかく早く目的の場所まで案内しよう。

「さようでございますか。私でよければご案内いたします」

表情を変えずに伝え、半歩前を歩き始める。

「ありがとう、悪いね」

私は頭を軽く下げて、前を向いて歩く。

「ねえ、君はみんなみたいに、会社が買収されるのに慌てていないね」

「いいえ、驚きました」

それよりも買収相手の企業の常務がここにいることの方が、びっくりしているけれど。

「そのわりには、通常の仕事をしているように見えるんだが」

「はい。お客様には関係のないことなので。職を解かれるまではいつも通り働きます」

 みんなと先行きを不安がるよりも早く仕事を終わらせて、家に帰りたい。

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