Phantom
零は内服薬と記された、白い薬局の紙袋を取り出して、中身を図書準備室のテーブルに広げた。女性らしい丸っこい字で、「今在零」と彼の名前が飾られている。
「これ、零の?」
「うん。前も言ったけど、ぼく、不眠症だから病院に通ってるの」
「じゃあこれは、眠るためのお薬?」
「大正解。さすが、睡は賢いね」
彼はシートから薬を3粒取り出す。これは、眠るための魔法のお薬なんだよ、と教えてくれた。
「これを飲めばいいの?」
「うん。睡、こっちおいで」
零は錠剤を口に含み、噛んだ。魔法のお薬を噛むなんて、魔界では御法度だろうに。
「くち、開けて」
「ん、」
「うん、いい子だね」
控えめに舌を出すと、零はにっこりとほほえんでそれに吸い付いた。唇が重なり、舌が交わる。
細かく丁寧に砕かれた錠剤の苦味を舌先で感じる。舌を丁寧に嬲られて、ざらざらとした星の欠片を少しずつ飲み込んだとき、うれしくて、しあわせで、これ以上ないってくらいに満たされていて、泣きたくてたまらなかった。
「睡眠薬は星の欠片で、じょうずに噛めたら星屑になるんだよ」
吐息のすき間を縫って放たれた言葉はあたしだけのもの。一緒にこの世界からひらり飛び立ち、あなたの胸の中で過ごす最期はもうそこにある。あとは、あなたがふたりを殺すだけ。