Phantom

記憶の子羊


 ファントム・ペイン。幻肢痛。切断した手足が存在するように感じられて、しかもその手足が痛いと感じる、幻の痛みだ。

 詠がそこにいるせいか、あたしはいなくなった零がまだそこにいる気がして、いつもどこかが痛い。

 いつになったら、あの夢を見なくなるだろう。夢の中の零は、毎夜必ずあたしを裏切る。なぜ、あたしだけを生かしたのだろう。あたしたちは間違いなく、愛し合っていたはずなのに。





「夢見さん、今回も、同じお薬を2週間分お出しして大丈夫ですか?」


 真っ白な、昼寝の後みたいな空間で、ルーチンワークをこなすだけの主治医にやさしく尋ねられる。

 昔はよく眠れていた。眠ることが好きだった。眠ることが好きなのは今でも変わらないが、あたしは零が死んだあと、なぜか突然、不眠症になった。

 呪いだな、と思う。


「すみません、来週からしばらく実家に帰るので、すこし多めに出してもらえませんか。1ヶ月分くらい」

「わかりました。夢見さん、まじめに服薬していらっしゃいますから、いいですよ。これからも1ヶ月単位でお出ししましょうか?」

「はい、お願いします」


 眠ることが好きだが、不眠症を患ってしまったので、最近はお酒を覚えた。

 多分あたしは、意識を現実世界から切り離すことが好きなのかもしれない。高校の頃は、意識を混濁させる方法を、睡眠と死以外に知らなかった。お酒に酔った感覚や、たばこを吸ってクラクラとする感覚を覚えたあたしは、昔よりもだいぶ生きやすくなった。

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