Phantom

 処方箋を受け取って、隣接する薬局に向かおうとしたとき、スマホに着信が入った。

 見ると、今在詠だった。出ないと後から面倒なことになるので、応答ボタンをタップする。


『もしもし。おまえ、いまどこにいる?』

「病院」

『へえ、生きる気あるんだ』


 こいつはいつだって一言多い。詠と関わりを持つようになったのは零が死んだ後からだけど、なぜか彼はいつも、嫌味混じりであたしへの生存確認を欠かさない。あたしはおまえのせいで、いつも痛い。どこかが鈍く痛むのだ。

 だが、言い返せない。詠の同胞を奪ってしまった罪の意識は、責任となってあたしを傷つける。これは零のファントム・ペインとはまた違う痛みだ。


「現世から距離を置くには眠るしかないのよ」

『あっそ。このあと予定は?』

「午後から友達と会う」


 薬局の前で電話を切ろうとすると、向こう側から、「ちょっとまって」と制止される。その声が零にちょっとだけ似ていて、またもどこかが痛んだ。


『終わったら迎えに行くから、連絡しろ』



< 19 / 25 >

この作品をシェア

pagetop