Phantom
詠との通話を切り、薬局で1ヶ月分の睡眠薬を受け取った。
それを大切に鞄に仕舞い込み、タクシーで最寄りの駅まで向かう。
ほんとうは節約しなきゃいけないけれど、ちょうど昨日は薬が切れていて寝不足で、頭がひどく痛かった。いま炎天下のなかを歩いたら倒れる気がしたから、タクシーを利用した。これは正当な言い訳だ。わたしは言い訳がないとタクシーに乗れない、かわいそうな女の子。
その後電車に乗り込み、数駅揺られ、待ち合わせ場所に指定されたカフェに向かう。
到着して店の中を覗き込むと、すでにあたし以外の2人がいる。こちらに気づいた片方が、「お!」と言いながら片手を上げた。
「睡ちゃん、ひさしぶりー」
「げんき? 今日も寝不足? やっぱバイト忙しいの?」
どちらの問いかけに答えるべきかわからず、曖昧に頷いた。
彼女たちは大学の友人だ。大学1年生のときに受講したとある少人数制の授業で、女の子があたしたち3人だけだったから自然に仲良くなったのだ。たまに予定を合わせては話すくらいの仲ではある。
正直、大学を卒業したら話すこともなくなるだろう。けれど、刹那的に会話をするだけならば、放っておいても話し続けてくれる彼女たちは、いい意味で丁度良かった。いっときの孤独感を誤魔化せるから。
ひとりでいるのは耐えられないくせに、会話の矛先をこちらに向けられるのが嫌、という矛盾を抱えている。なので自分から「見ないうちに髪染めた?」と、黒に近いネイビーの髪をした友人に問いかけた。
彼女が自分の話を始めてくれたので、安心して通路側の座席に座る。