Phantom

 彼女たちに零の話をしたのは、幾度となく振られる恋愛トークのなかで、特定の相手がいないことを伝えたとき、「ありえない」という反応をされることに疲れたからだ。

 「むかし付き合っていた彼氏が亡くなった」と言えば、なんかその、恋愛したくないっていう雰囲気を掴んでもらえるかなって、そんなことを考えたから。

 だけどあたしの考えは甘かった。どこまで行っても恋愛脳の彼女たちは、「睡に新しい相手を充てがおう」と大はしゃぎをする。彼女たちは零のことなんかより、いるはずもない未来の恋人のほうが気になるのだ。


「えー、てかさ、あたしこの間見ちゃったんだけど」


 茶髪ボブカットの彼女が、まんまるの瞳の中にあたしを閉じ込めた。全身の緊張はより強まり、頭を上下に振ることしかできない。


「このまえ、睡ちゃんが男の子と歩いてるとこ、見たよ」

「え! うそ!」

「いや、ほんとだって。駅でさ、黒髪のイケメンと歩いてたの! 背がこのくらいあって、緑っぽい、柄物のシャツ着てて」


 彼女たちはあたしの反応を気にしている。

 どうしよう。たぶんそれ、詠だ。


「双子の、弟のほうかも」


 寝不足のせいか、検閲を経ずに事実だけがするりと口先から飛び出した。

 一度排出された言葉はもう元には戻らない。彼女たちのきらきらとした目がかっと開くのを認識したとき、失敗した、と思った。


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