眩暈ーげんうんー
あたしの好きな人、先生

眩んだ恋

ああ、眩暈(めまい)のような恋に落ちてしまったんだ。

クラクラとする激しさがあっても、決して結ばれない不幸な恋。

そしてその恋が破滅をもたらしたんだ。

ーーあたしは先生を殺してしまったーー

どこで何を間違えてしまったの?


好きになったのが奥さんの居る人じゃなかったらどれだけ良かったか。

それも教師じゃなかったら。

ねえ、細谷(ほそや)先生。

好きになる相手を間違えたのでしょうか。

いや。きっと先生を愛しすぎた、あたしの全てが不正解。

先生を独り占めしたい思いばかり募らせて、綺麗な関係で結ばれない運命を毎日呪った。


他の誰にも取られないように。

自分だけのもので、ずっと居てほしい。

本当に他は望まないから、先生の全部をあたしにくださいと心から願った。

きっと、あたしは細谷先生と恋をするために鈴宮美咲(すずみやみさき)として16年間生きてきたんだ。

その後の人生なんかどうなったっていい。

愛するために、全てを捨てたって構わないから。

だから、先生。あたしだけを愛してほしかった。


夏休みもじきに終わる8月31日、あたしだけがいつも部活に来ていた。

2人きりの秘め事。美術室の奥にある先生のアトリエになっている部屋に居る。
夕日が先生の個性的な作品達を照らしていて、何だか切ない。

1つ1つが息をしているくらい、新鮮で。全ての作品が生きているかのように感じられたけど、その美しさが心を揺さぶってくる。



自身の犯した愚かな行いに恐怖を覚え、悲しみの大きな波があたしを飲み込んだ。


その波は自分の体温を容赦(ようしゃ)なく奪う。身体の震えが止まらなくなった。

なのに、心にたまった先生を思う熱は簡単に引いてくれない。
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