眩暈ーげんうんー
先生は首を横に振って、迷惑だなんて。むしろ感謝していますと笑みを浮かべながら優しく喋った。


「僕は嬉しいですよ。鈴宮さんが来てくれて。それに、僕も絵を描きたいから部室を開けることにしたんです。今なら部室、使い放題でいいと思いません? 」

そう言ってる先生は楽しそうだ。
鼻歌なんて歌ってる。

やっぱり先生は優しい。
それにあたしは部活を休んだって、どうせ絵を描く以外にやることなんてないから。

先生の厚意に甘えよう。
そう思いつつも、まだ心に引っかかる。
こんなにも生徒思いで尽くしてくれる先生なのに。

あたし以外は真面目に部活をやらないんだ。

なんで、 皆そんなに楽したいのか。
わからない。努力し続ければ、いつか自分自身が認められるかもしれないのに。

先輩か誰だったか忘れたけど、絵なんて真剣に描いたって社会には必要とされない個性だって言ってた。

発言を思い出した、あたしの心はギスギスしだした。

絵を描く事が無駄なんて考え、あたしは受け入れられない。

社会に必要とされない個性なんて、人の物差しだけで決められてたまるか。

人ってきっと、楽したい生き物だから諦める理由を直ぐに見つけてしまう。

だから諦めたくなる自分をいつも誤魔化しながらやっていくしかない。

それは誰にでもできることじゃないのかもしれない。

だからこそ、あたしだけは先生を裏切らないようにしないと。そう思わずにはいられなかった。
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