眩暈ーげんうんー
「そういや、何をしに来たのでしょうか」

先生の言葉ではっ、とした。

そう、あたしは赤の絵の具が必要なんだった。

探していたはずなのに。

「赤い絵の具が足りなくて」

自分で取ろうとしたら、直ぐに先生が代わりに動いてくれた。

そんな細かい優しさに、少しドキドキしてしまった。

きっと憧れの先生と2人きりだから、緊張しているのかもしれない。

先生に恋愛感情を抱いているなんて、そんなはずはないだろう。

「そうでしたか赤、はこれとこれと……はあい。どうぞ」

先生が手渡してくれた。手が少し触れた。ひんやりとしている。

鮮やかなカドニウムレッド、少し鮮やかで半不透明なピロールレッド。

少し扱いが難しい毒性のある、黄みががった赤い高級なバーミリオンまで。

「あ、ありがとうございます」

やっぱりなんか、緊張なのか。声が少し小さくなってしまった。

「いいんですよ、先生に沢山頼ってくださいね。鈴宮さんは先生にとって特別な生徒ですから。」

全然何でもないかのように、先生はさらっと言ったことだけど。

特別な生徒。

その言葉であたしの心はふわふわと羽根が舞うかのような甘い気持ちになる。
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