眩暈ーげんうんー
完全に結ばれない残酷な運命さえ愛しく思えたら、どんなに幸せか。

あたしは欲張りだから、もっと欲しくなってしまったのが良くなかった。


でも先生の全てを独り占めしたいと思うことの、何が悪いのだろう。

そう思えば思うほど嫌な気持ちになり、現実逃避をしたくなった。魔が差したんだと言い訳すればいい。今は、何も考えたくない。

雷の音が聞こえた。ふと、近くの窓を見てみると外は馬鹿なあたしを嘲笑(あざわら)うような天気へと変わった。


晴れたままなのに、横なぐりに降る夏の雷雨。降る音までも、ザアザアとはっきり聞こえる。零れたあたしの涙をドラマティックなそれらしいものにするには、ちょうどいい。

あたしの心は嵐となって、どす黒い感情がドロドロに渦巻いていた。


ただひたすらに悲しい。
流れる涙さえもこらえたいのに。先生を思う気持ちが泣くことによって、流れ去ってしまわないように。
この気持ちさえも無くなったら、あたしは全てを失う。

ちゃんと正しく愛されなかったあたしが悪いのか。

いや、違う。先生があたしをおかしくさせたんだ。自分は悪くない。

先生は当然の報いを受けたんだ。
だからあたしに殺されても、文句なんて言えないんだ。


身体の震えが治まらない。呼吸さえもうまく出来なくて息苦しい。

横たわる先生の柔らかな唇を指でなぞって、その指を自分の唇に押しあてた。

もう、先生からキスをしてくれない。

美しい顔をした先生。微笑んでくれる時、大きな目を細める。日本人にはあまりいない鷲鼻。にっこりとすると弧を描く薄い唇。右目の泣きぼくろ。癖のある少し長い髪、いつも部活の時はヘアゴムで束ねてる。

全てが愛しかったのに。それなのに。

不安を拭うために、大好きな先生を強く抱きしめた。


そして、ゆっくりと丁寧に思い出す。
振り返ればあの日々の何もかもが色鮮やかに蘇る。







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