眩暈ーげんうんー

2人きり

結局、先生から聞いた話だと先輩も夏休みの間、来ないみたい。

夏休み、あたしだけ。


午後1時に来てお昼を持ってきて食べた。お母さんのお弁当。いつもあたしの好きなミニトマトを入れてくれる。甘い玉子焼き。メインのハンバーグも手作り。優しさのあるお弁当があたしは好き。

食べ終えて直ぐに取りかかってからもう3時半、2時間くらいずっと集中してた。

美術室はクーラーが効いていて涼しくて静か。

絵の具の独特の匂いが妙に落ち着く。

赤の絵の具が足りないので、もらおうと席を離れた。うちは私立なので、部室のものは揃っていて自由に使える。絵の具もキャンバスも筆も全部好きなだけ。確か、絵の具は後ろの棚にあったはず。

部室の後ろの空いたスペース。
描きかけのキャンバスがイーゼルに立てかけられている。2年生の作品。
人物画で従兄弟の幼い頃を描いたらしい。
笑顔があどけない雰囲気。

他は海月《くらげ》、青が好きな先輩の絵。
ふわふわ海を漂っているように見える。

芸能人の、確かバンドマンのボーカリストだったかな。1番かっこいい場面を描いたらしい。上田さんの作品。おそらくライブで歌ってる姿だ。分からないあたしでも凄くかっこいいなって。

皆、素敵な絵を描くのに。なんでもっとやる気にならないんだろう。


誰も来ない夏休み。

複雑な気持ちになり、美術室の静けさが何だか寂しくもあり。


先生とあたし以外、居ない。




つまり誰にも邪魔されないで、絵に打ち込めるということ。


だけど、迷惑なんじゃないか。
心配になって、ちょうど後ろの海月の作品を見ていた先生に声をかけた。

「あの、先生」

「はいはーい。鈴宮さん、どうしました」

「あたしも休んだ方が良かったでしょうか」
「何故、そう思ったのでしょう」

先生は目を見開き驚いた表情をしたので、何かまずいことを言ってしまったのかと胸がちくちくした。


「みんな来ないのに、あたしだけがわざわざ来て迷惑かなって」
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