耽美なる箱庭

01:憂鬱モーニング



 6時10分。アラームが鳴る。

 まだ夜中だと思っていたのに、もう朝になってしまったらしい。

 徹夜をしたせいで、無意味になってしまった時計の起床アラームを止める。疲れ眼を手のひらでごしごし擦ると、脳内に出てきた幼なじみが擦るなと怒った。



「あれ? 千佳くん、帰ってきてないや」



 無駄に広い家は、しんとしていて人の気配がない。

 それは6つ上の幼なじみが、まだ帰ってきていないことを暗に示していた。

 どうせなら一緒にベッドに入って眠りたい。少し待っていようと、わたしはキッチンに行き、甘いカフェオレをマグに入れて、玄関先でちょこんと体育座り。

 待っていた時間は、おそらく30分ほど。

 家の門のロックが解除される音がして、わたしは玄関のドアを半分だけ開けた。



「……千佳くん、おかえり」

「おい、裸足で出てくるな。風邪ひくだろ。家の中戻れ、すぐ行くから」

「お迎えしようかなって」



 わたしの姿を見つけ、帰ってきて早々に、小言をぶつけてくる過保護な千佳くん。

 でも、あからさまにしょぼんと落ち込むと、呆れた顔で走ってきた千佳くんが、雑に頭を撫でてくれた。



「──ただいま、乃々」



 高い外壁と木々に囲まれた家。

 過保護な幼なじみの要望もあって、常に最新のセキュリティを利用している家は、まるで世界から孤立した箱庭。

 この安心できる箱庭が──、

 わたし、泗水 乃々と幼なじみである藺月 千佳の住まいだ。

< 1 / 105 >

この作品をシェア

pagetop