耽美なる箱庭


 触れ合った唇から、ぬくもりが伝わる。

 背伸びして抱きつくと、後頭部に手を回り優しく押さえつけられた。千佳くんのもう片方の手が自然と腰を抱く。


「(くちびる、柔らかいな……)」


 緊張してカチコチのわたしを解すみたいに、何度も角度を変えて口付けをしてくる。

 キスの勉強をすればよかったと後悔した。ネットの知識すら拾わず、引きこもりで人との交流がないわたしは、何が正解かわからない。

 息継ぎのタイミングを計っていると、唇をぺろりと舌で舐められた。


「……ん? なに?」

「のの。口開けて、舌出して」

「え、なんで?」

「唇くっつけるだけがキスだと思ってんの?」


 見下ろしてくる千佳くんの瞳が、扇情的に色づく。

 言いたいことはわかってる。映画とか本とかでも度々出てきて、そういう濃厚なキスの仕方があるのは知ってるんだけど。


「や、やり方わかんない……」


 尻窄みに消えていく、わたしの声。

 いろんな種類の恥ずかしさに襲われて目を逸らした。


「……」

「だから千佳くんが、おしえて……」

「……っ、は〜……」


 自分の目元を片手で覆った千佳くんが、わたしの腰を抱いたまま息を大きく吐く。

 どうしたの、という声は、


「──ふっ、ぁ」


 千佳くんの唇と舌に食べられて、まるごとぱくりと呑み込まれた。

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