耽美なる箱庭
02:戸惑いヌーン
◇
大晦日の前日に、わたしは生まれた。
ままは有名な歌手で、ぱぱは音楽家だった。
芸能人がよく住む高層階のマンションで、隣に住んでいた藺月家と仲良くなったことが、幼なじみのはじまり。
生まれたときから千佳くんとは一緒で、ままとぱぱよりも先に「ち!」とわたしは千佳くんを認識して呼んだらしい。
なんと、わたしのはじめての瞬間全てに、千佳くんは立ち会っていた。
「のの、千佳お兄ちゃん来たよ」
「ちー」
「ちか、だよ。言ってみて」
「ちー?」
6歳年上の千佳くんは、この頃からわたしを甘やかしていたようで、ふくふくな頬っぺが……と今でも酔った時に言う。
寵愛を一身に受けて、蝶よ花よと育てられ、環境に恵まれたわたしは、小学生に上がるまで、みんな優しい人間なんだと思っていた。
人見知りでシャイな性格が災いしたのは、小学2年生のとき。
学芸会で、わたしは主役の妖精役に選ばれた。
「のの、俺が衣装作ってあげる」
自分のことのように喜んでくれた千佳くんは、そのとき中学2年生。
藺月家は、千佳ままの由佳ちゃんがモデルで千佳ぱぱの千里くんがデザイナーだった。
両親の影響か千佳くんは昔からたくさんわたしに服を作ってくれていて、目立つのは苦手だけど、衣装作りに励む千佳くんをみていたら頑張れる気がした。