耽美なる箱庭
だけど、世界は優しい人間ばかりじゃない。
── 「なんであの子が主役なの」
人見知りな性格も相まって、わたしは一部のクラスメイトから反感を買った。小声で囁かれる悪口がこわくて、どんどん口数も減っていく。
「どうした、のの。学芸会もうすぐだろ? 俺も見に行くから」
「……うん」
「人前で歌ったり踊ったりするのこわい?」
弱々しく首を振るわたしに、どうにか元気づけようとする千佳くんが、完成した衣装を見せてくれる。
神秘的で、可愛さもあるワンピース。
パステルカラーが重なる衣装は背中に羽があり、輝くビーズがふんだんに散りばめられていて、わたしの憂鬱は空の彼方に吹っ飛んだ。
「わあ! かわいい! ちーくんありがとう!」
本物の妖精になったみたい。
そうやって喜ぶわたしは、少し照れた様子でハグしてくれる千佳くんにお礼を言い、ままやぱぱにも着たのを見せて自慢した。
でも、その完璧な衣装が決定打だった。
── 「壊しちゃえ」
びりびりにされた衣装、破かれた羽、取れたビーズ。
学芸会を間近に控えて、悪意に晒されたわたしは、主役を降りた。