耽美なる箱庭



 砂と埃だらけの地面に、乱暴に押し倒される。

 恐怖で喉が引き攣って声なんか出ないし、濡れて張り付いたシャツも、覆いかぶさってきた男の息も、きもちわるい。ぜんぶぜんぶ、きもちわるい。

 たすけてって、言わないといけないのに。


「(……声、でない)」


 恐怖心が、わたしを支配する。

 情けないくらいに震えて、眦から涙が滴った。


「……っ、やめて……」


 どうにか声を絞り出すも、目の前の男はわたしの足を撫でて「やめない」と言い放つ。

 暴れて、叫んで、抵抗しないと。

 人の気配がしない廃ビル。今日は、雨音もあって声が響かない。何回も「人の少ない暗い場所は歩くな」って、千佳くんに注意されてたのに。


「っ、やだ」


 スカートの裾をまくられ、男の手が素肌に触れた。

 いやらしく肌を触られる感覚が、吐き気を催すほどきもちわるくて、歯を食いしばって泣く。

 ちかくん、ちかくん、たすけて。


「────ッ、のの!!」


 待ち望んでいた声がした。

 そして、目の前から男が消えた。

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