耽美なる箱庭


 低い潜めるような声が、鼓膜を揺らした。

 驚いてドアの方に顔を向けると、鋭利な双眸の千佳くんがいて、熱のせいではない寒気に襲われる。

 わたしは両足が床に張りついたまま、無言で近寄ってくる千佳くんにスマホを奪われた。

 そして、麗くんに千佳くんは冷たく一言。


「麗、余計なことをするな」


 とだけ言い、通話を切る。

 スマホをベッドに放り投げ、無言でじっと見下ろしてくる千佳くんに萎縮した。悪さをして見つかった子どもが叱責される前みたいな緊張感。

 どうしよう。

 先に、勝手に電話でたことを謝ろう。


「勝手に千佳くんの電話でてごめんなさい。それとあのね、麗くんがモデルの話を──……」


 平静を努めて、口を開いた。

 けれど。


「──乃々」


 わたしの言葉を遮るようにして名前を呼んできた千佳くんが、そっと首筋に手を這わせてくる。


「麗から言われたことは忘れろ」

「……え?」

「俺が断っとくから、何も考えなくていい」


 ……なに、それ。

 目の前の千佳くんは、わたしの意思を無視して有無を言わせないような物言いだ。

 悲しさと少しの怒りで、涙が滲んだ。

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