耽美なる箱庭


 普段通りに戻った千佳くんは、サイドテーブルに置いていたお粥を持ち、スプーンで掬ってわたしの口元に差し出してくる。

 自分で食べられるのに、過保護だ。


「ほんとに、モデルやる気か?」

「……だめ?」

「お前の望みは、俺が叶えてやるって言っただろ」

「つまり?」

「顔半分は絶対隠す。肌の露出も最低限。麗に懐かない。この条件でならモデルやっていい」

「わ、わかった」


 麗くんに懐かない、が気になったけど追求するのはやめた。

 正直、モデルをやるのには不安要素しかなくて、家から出ることも、人前に出ることも、素人のわたしがモデルをすることも、なにもかもこわい。

 だけど、今回だけは頑張ると決めたのだ。

 なぜなら、千佳くんと対等になって認められたい、なんて不純な動機だから。


「これはチャンスなの」


 わたしの唇を、スプーンでつついた千佳くんが不思議そうに「ん?」と小首を傾げる。

 せっせと口元にお粥を運んでくる千佳くんは、まるで親鳥だ。


「モデル、頑張る。成功したら伝えたいことあるから話聞いてほしい」

「……俺も、ののに伝えたいことある」

「ん」


 変わるための、一歩。

 視線を伏せた千佳くんを一瞥し、わたしも微笑んで覚悟を固めた。

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