耽美なる箱庭
03:怖々イブニング
ついに、迎えた撮影当日。
有明の空の下、わたしはフードを深く被り直した。
「のの、タクシー来たぞ」
「ち、ちかくん……! 手繋いで……!」
「どんだけ怯えてんだよ」
「だって数年ぶりの外なんだもん。こわい」
せっせと千佳くんに看病され、無事風邪も寛解。
ただ、わたしの知らぬところで諸々の準備が進められていたらしく、あっという間にモデルとして頑張らねばならない日がやってきてしまった。
家の敷地内から出るのは、約1年半ぶり。とにかくこわくて仕方がない。
門の前にいるタクシーに乗車すると、千佳くんが指定した住所に車が走り出した。
わたしは外の景色に怯えながら、千佳くんにぴっとりと寄り添う。
「ひ、ひとがいる……!」
「はじめて外に出たやつの感想か。そりゃいるだろ」
「どうしよう、わたし変?」
「今の格好は黒尽くめすぎて変だな」
「ううう」
外も人もこわい。拠り所は千佳くんだけ。
よしよしと宥められながら心を落ち着かせる。数十分走行し、タクシーはスタジオに到着した。
ガクブルと震えつつ、わたしは両足を地につける。
すると、パタパタ走ってくる足音。
「久しぶり〜、ののちゃん」
「わっ」
ぎゅむ。
走ってきた人物に、豪快にハグされた。