耽美なる箱庭


 一緒に仕事してるくらい仲良しなのに、どうして睨み合ってるんだろう。

 わたしは、なんとなく、麗くんの顔と千佳くんの顔を見比べてみた。


「(系統の違う、美人がふたり……)」


 麗くんは洗練された迫力あるけど、千佳くんは厳かで凛としている。

 ノーセットの黒髪は艶があり、冷たいつり目で一見近寄り難いけど、全てのパーツが均整の取れた配置。無表情だと、やや朴念仁っぽい印象だ。

 わたしは、やっぱり千佳くんの顔が好みかな。


「ののちゃん、準備はいい?」

「へ?」


 顔に意識を向けすぎていて、反応が遅れた。

 首を傾けると「スタジオにもう人集まってるから」と言われ、緊張から喉が渇く。

 でも、こくんと頷いて背筋を伸ばした。


「のの、手繋ぐか?」

「だいじょうぶ。挨拶は大事だから」

「……無理になったら言えよ」


 むりでも頑張る。変わるって決めたんだもん。

 麗くんと千佳くんの背中を追い、アンティーク調の家具が置かれたスタジオに、足を踏み入れた。

 泗水 乃々! いざ参る!


「き、今日は、よ、よろしくお願いします……!」


 ガバリ、深くお辞儀してご挨拶。

 声は震えたけど、頭を下げたおかげで誰の顔もみえなかったから、なんとか第一関門を突破できた。
< 45 / 105 >

この作品をシェア

pagetop