耽美なる箱庭


 うまく、息ができなかった。

 まわりのひとが、全員敵にみえて、譫言のように「千佳くん」と名前をよびながら、パニックになって泣いた。

 ぐちゃりと撹乱する脳内。

 こわくてこわくて、たまらない。



「ののちゃん!」

「っ、や、やだ!ひっ、う、」

「……落ちついて、きみに誰もなにもこわいことしないから、ゆっくり呼吸して。千佳もすぐにくる」



 麗くんだって、わかってるのに。



「やだっ、や、っ」

「くそ、はやく千佳呼べ!」



 近寄られるのも触られるのもこわくて、うまく息が吸えない。

 底知れぬ恐怖に、あたまを抱えて蹲った。



「ちかくん、ちかくん……っ」



 涙で、視界が霞む。

 宥めようとする麗くんからも逃げて、小さく身体を縮こませた。

 そして、ようやく、乱暴に開いた襖の向こう側。

 ひどく慌てた千佳くんが顔をくしゃりと歪め、わたしの名前を紡ぐ。



「──っ、乃々!」



 ふわり。わたしを包む体温は、千佳くんのもの。

 耳元できこえる心音。わたしは呼吸の仕方を思い出して、安心できる腕の中で意識を手放した──。

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