耽美なる箱庭


 心臓の音って、安心する。

 とくとくとく……と規則正しく動く鼓動に耳を澄ませて、あたたかな体温に安らいだ。このままもう一眠りしたい。

 だけど、頭上から降ってくる哀愁を含んだ音色が、それを妨害した。


「のの」

「ん?」

「怖い思いしたときに、そばにいてやれなくて悪かった」


 どうして、わたしが謝られているんだろう。

 彼の懐に埋まり、ぐりぐりと頭を押しつけながら首を横に振った。


「千佳くん、なにも悪くないよ。いつも助けてくれてありがとう」


 急にニュース記事を見せられて、あまりにも不意打ちだったからパニックになってしまったけど、実はけっこう消化できている。

 それもすべて、千佳くんのおかげだ。

 ふわりと口元を緩めて、悔恨の残る瞳に、大丈夫だよと伝えた。


「……お前を、ひとりにした」

「そりゃあ、付きっきりなんてむりだもん」

「もう二度と、こんな目には遭わせない」

「そんな気負わなくていいよ」


 毛布に包まれたまま、会話する。

 わたしが傷つくと、千佳くんはいちいち大袈裟に気にしてへこむから、負担が軽くなるように「平気」と口にしたけれど──


「俺が平気じゃねぇわ」


 頬に手を当ててきた千佳くんが、眼光を鋭くして、言葉を吐き捨てた。
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