耽美なる箱庭


 あれ、予想していた反応とちがう……。

 口を横にきつく結んだ千佳くんは、わたしの格好をまじまじと観察して、あろうことかブラジャーのホックを外そうと手を伸ばしてきた。



「なっ、ちかくんっ」

「……お前さ、わかってる?」

「え、なにがっ」



 詰問するような千佳くんに、たじろぐ。

 喜ぶと思ったんだけど、どこで間違えたんだろう?

 眉をひそめている顔に「ごめんなさい?」と意味もわからず謝れば、呆れたようなため息をされ、ベッドに押し倒されてしまった。

 うわあ、怒ってる顔もかっこいい……!



「あと数分も経てば、お前を抱くんだけど」

「……う、うん?」

「なんで他の男から贈られたもの着てんの?」

「(あ、やきもち?)」



 正面にある愛おしい顔は、どこか拗ねている。

 艶やかな黒髪が垂れ落ちて、悋気な瞳はわたしを真っ直ぐに捉えていた。

 千佳くんは、ブラジャーの肩紐を指先でくいっと持ち上げて「で?」と圧をかけてくる。



「ランジェリー姿、かわいくない?」

「かわいいけど」

「ほめてくれてもいいよ」

「ののが世界で一番可愛いよ」

「ありがとう」

「でも俺がデザインしたやつ着せたかった」

「それはごめんね」

「ん」

「脱がせてくれる?」

「……ん」



 チクタク。

 時計の針が、12と書かれた数字の横に並んだ。

< 83 / 105 >

この作品をシェア

pagetop