耽美なる箱庭
月光が頼りの薄明かりの中、わたしが纏うものをすべて取り払った千佳くんは無言でキスをしてくる。
柔らかな唇が触れ合うと、身体の芯から解れていくような心地良さがした。
繊細で器用な指先が、わたしの肌を撫でて、もどかしい。
「──……んっ」
腰の線に沿って撫でる手が擽ったくて、身動ぎしながら声を漏らすと、すかさず開いた口内に舌が滑り込んできた。
どうしよう、時計の針を確認できない。
ねえ、ちかくん。……いま、なんじかな?
「のの」
「……っ、ん?」
「なった」
「……?」
「誕生日おめでとう」
甘やかな口付けとともに、祝われる。
暗闇で時計の方に視線を向けると、12の真ん中に針がきていた。
顔の位置を戻すと、千佳くんの慈しむような瞳にわたしが映っている。ほんとうに、わたしだけだ。
泣きそうになるくらい優しい笑みが向けられて、多幸感に溺れそうになった。
「抱くよ」
宣言通り、遠慮なくわたしに触れる千佳くん。
手から、唇から、呼吸から。生々しい欲を、感じ取ってしまう。はしたない声を我慢できず、与えられる途方もない愛を享受した。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
こちらこそ、いっしょに生きてくれてありがとう。
やっと、ひとつに繋がっている。
わたしは、ちいさくて、せまくて、うつくしい箱庭のなかで、心の底から願ったものを手にいれた。
この箱庭と彼さえいれば、なにもいらない。