耽美なる箱庭
不貞腐れた女が、制服を着直して鏡越しに会話を継続してくる。
「麗は、インキュバスっぽいって噂よ」
「……ふぅん」
「反対に、藺月千佳は難攻不落の魔王」
「ふは、魔王。言い得て妙」
ケラケラと笑えば、女がスカートのシワを伸ばしながら、「性格は違うけど、どっちもダークサイドに属してるわよね」と告げてきた。
あーあ、ほんと、女ってやつは勘がいい。
精神年齢が低くてデリカシーのない同年代の男を、ガキ呼ばわりするわけだ。
「そーおもう?」
「思うわ。だから麗のことも誘ったのよ。私のことなんて微塵も好きじゃなさそうだから」
「へえ〜……」
非難というより、自嘲に聞こえた。
手櫛で髪を梳かした女が、生徒会室を出るように視線で促してくる。
一緒に帰るつもりは当然なく、暗黙の了解と言わんばかりに、「またね」と次を匂わせる定型文を送り、別れた。
んー、もう誘われないかもな。
「(あの女、けっこう厄介そう)」
こういう勘は、よくあたる。
そして、俺の予感したフラグは数日後、無事厄介な女の失言によって回収されることになった。