耽美なる箱庭
──藺月千佳の、歪んだ片鱗を目撃したのは、空が黄昏てきた頃の生徒会室。
「どうして、私じゃダメなの!?」
ヒステリックな声が、生徒会室の扉の向こう側から聞こえてきた。
生徒会の雑用の手伝いとして、千佳が名指しで生徒会長に連れていかれた、なんてことを小耳に挟んだから来てみれば、案の定だ。
「興味ないので」
「まだ、私のこと何も知らないじゃない」
「知る必要性を感じません」
「っ、」
う〜わ、やってるやってる。
自尊心を傷つけられた女の末路というか、なんというか。自ら傷を深くして、どうしたいんだろ。
そう謎の思考回路に首を傾げていれば、
「どいつもこいつも、なんなのよ……!」
ガタンッ、と扉越しに倒れ込む音がした。
どいつもこいつも、の中に俺も含まれてそうだと思いつつ、やばそうなので扉に手をかけて開ける。
視線の先、千佳を押し倒して馬乗りになってる生徒会長と、冷徹なまでに無表情の千佳がいて、呆れ笑いが零れそうになった。
「……れ、い」
「先輩、やめといた方がいいって忠告したよ」
「……っ、なん、で」
「先輩に、千佳の童貞は奪えないよ」
唇を噛む生徒会長は、女の顔をしている。
千佳は俺を一瞥したあと、乱雑に自分の上から女を退かし、学ランの襟を直しながら言い放った。
「奪われるくらいなら、あんたを殺してやる」
死んでやる、とかじゃなくて、殺してやる。
まじで、千佳らしい台詞だ。解釈一致。
本気の音色で告げた千佳は、顔を青ざめさせた女を置いて、生徒会室をさっさと出ていった。