耽美なる箱庭


 山も谷もなく過ごす日々。

 不用意に自己開示をしない千佳だが、あるとき年下の幼なじみがいることを明かした。相当可愛くて、溺愛してるらしい。写真を一枚も見せてくれなかった。

 その子のために、千佳が衣装を作っていた頃のこと。


「藺月くん! おは……うわぁ! 人を殺ってきたときの顔してる!」

「……」

「あ、ごめんなさい。邪魔だね。退きます」


 朝、登校してきた千佳を前に恒例の挨拶をしたクラスメイトが、バカ正直に声に出した挙句、後ずさる。

 誰が、どう見ても、魔王がブチギレてるとしか思えない様子だ。

 俺は珍しいこともあるんだな、と首を傾げた。


「(千佳が感情を表に出すってことは……)」


 幼なじみの女の子!

 俺の脳内で、ぴこん! と正解の丸ができる。


「な、さぼろ」

「……」


 自分の席についたものの、暗黒面に落ちている千佳は授業どころではない。

 後に、連れ出した俺は千佳から、幼なじみの子が嫉妬に駆られた同級生たちにいじめられたこと、衣装が壊されたことを聞いた。

 あー……それは魔王が荒れ狂うわな。

 会ったこともない。けれど、心優しい女の子を勝手に想像した俺は、少しだけ同情した。

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